JASTI 5-18-1の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-18-1 原文
従業員寮は、製造工程がある建物および危険物の貯蔵場所とは別の建物で なければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等の寮として使用する建物を、製造工程がある建物および危険物の貯蔵場所とは別の建物とします。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:事業附属寄宿舎規程、消防法、建築基準法、工場立地法などが、寮の立地、危険物管理、建物の安全性に関する包括的な枠組みを定めています。
国際人権基準:ILO第155号条約(職業安全衛生)、ILO第115号勧告(労働者住宅)、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、安全な居住環境と企業のデュー・ディリジェンス責任を強調しています。
このコミットメントは、単なる法令遵守を超え、ISO 45001のような国際規格の原則を取り入れ、労働者の安全と健康を能動的に確保する企業の姿勢を示すものです。
コミットメント達成の意義
寮と製造工程・危険物貯蔵場所を物理的に分離することは、事故発生時のリスクを大幅に軽減し、緊急時の安全な避難を確保します。また、騒音や有害物質から労働者を守り、健康的で快適な居住環境を提供します。これは企業の法的・社会的責任を果たす上で不可欠であり、ESG評価の向上とステークホルダーからの信頼構築に繋がります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 寄宿舎設置届
事業附属寄宿舎規程に基づき、寮の設置計画が労働基準監督署によって審査・承認されたことを証明します。
- 所轄労働基準監督署の受理印付き寄宿舎設置届(写し)。
- 添付書類:周囲の状況及び四隣との関係を示す図面(寮、工場、危険物貯蔵庫の位置関係と距離を明記)。
- 添付書類:建築物の各階平面図および断面図。
2. 建築確認・検査済証
寮の建物が建築基準法に適合して計画・建築され、法的に健全であることを証明します。
- 寮の建物に関する建築確認済証。
- 寮の建物に関する検査済証(完成物の適法性を保証)。
- 建築確認プロセスで取得した消防同意の記録。
3. 敷地図・写真・ビデオ
寮と危険区域の物理的な分離が、計画通りに実施・維持されていることを視覚的に証明します。
- 最新の敷地図、鳥瞰図、または注釈付き衛星画像(各施設と距離を明記)。
- 寮と製造エリア・危険物貯蔵場所の間の物理的距離や分離(フェンス、壁、オープンスペース等)を示す日付入り写真。
- 敷地内の区画線、立入禁止表示、避難経路標識が写った写真・ビデオ。
4. リスクアセスメント記録
物理的分離が、化学物質、緊急事態、環境ハザードに対する根本的なリスク低減策として機能していることを示します。
- 化学物質管理に関するリスクアセスメント記録(寮との距離を管理策として評価)。
- 緊急事態(火災、爆発、漏洩)シナリオのリスクアセスメント記録。
- 騒音、振動等の作業環境ハザードに関するリスクアセスメント記録。
5. 安全衛生委員会議事録
寮の安全確保が、労働者代表を含む委員会で定期的に議論され、管理されていることを証明します。
- 寮の安全、立地、避難計画に関する議論が含まれる議事録。
- 労働者代表が議論に参加し、意見を述べた記録。
- 議事録に基づく決定事項や是正措置の行動計画。
6. 消防・緊急時対応計画
緊急事態への準備が体系的に確立されており、寮住民の安全な避難が計画されていることを示します。
- 消防法に基づき作成された消防計画書。
- 寮からの避難経路が危険区域を迂回するように設定された図や説明。
- 緊急時の役割分担、連絡体制、応急手当の手順などを定めた文書。
7. 避難訓練実施記録
緊急時対応計画が実効性を持ち、継続的に改善されていることを実証します。
- 寮住民を含む全従業員が参加した避難訓練(年2回以上)の実施記録。
- 訓練日時、参加者リスト、訓練内容、避難にかかった時間。
- 訓練で発見された問題点と、それに対する是正措置の記録。
8. 従業員教育・訓練記録
労働者が安全に生活・作業するための知識とスキルを確保していることを示します。
- 寮住民を含む従業員への緊急時対応計画、避難経路、安全規則に関する教育記録。
- 新規雇入れ時や作業内容変更時の安全教育の記録。
- 危険物の危険性に関する周知・教育の記録。
9. 内部監査・点検記録
継続的な監視と改善のサイクルが機能し、安全管理が実務レベルで有効であることを証明します。
- 定期的な内部安全監査または安全パトロールの報告書・チェックリスト。
- 寮と危険区域の分離、標識、避難経路の確保状況に関する点検項目。
- 発見された不備と、それに対する是正措置の完了記録。
10. 消防法関連書類
危険物の管理と火災予防が消防法に準拠して適切に行われていることを証明します。
- 危険物貯蔵所設置許可証(指定数量以上の場合)。
- 少量危険物貯蔵取扱届出書(該当する場合)。
- 危険物施設の保安距離・保有空地が確保されていることを示す図面。
11. 工場立地法関連書類
特定工場の場合、寮の配置が敷地全体の環境調和計画に適合していることを示します。
- 工場立地法に基づく特定工場新設(変更)届出書(受理印付き)。
- 届出書に添付された、寮を含む敷地全体の利用計画図。
12. 用途地域・建築許可証
土地の適正利用と建物の用途管理に関する法的コンプライアンスを証明します。
- 寮の建物が「寄宿舎」として、製造施設が「工場」として、自治体によって正式に許可・指定されていることを示す書類。
- 敷地が属する用途地域(準工業地域、工業地域など)がわかる公的書類。
体系的コンプライアンスによる持続可能な安全文化の構築
労働者の寮を製造工程や危険物貯蔵場所から分離するというコミットメントの達成は、個別の証拠の提示だけでは不十分です。公式な届出書類(計画)から、リスクアセスメント、訓練記録、監査(実行・評価)、そして改善措置まで、全ての証拠が相互に連携し、一貫したストーリーを語ることが重要です。
このような堅牢な証拠ポートフォリオは、企業が法令遵守を超えて、国際基準を尊重し、能動的かつ体系的に労働者の安全と健康に取り組んでいることを証明します。これは、労働災害を予防し、企業の持続可能な発展を支える強固な基盤となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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