JASTI 5-18-6の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-18-6 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、食堂の営業許可を有しており、衛生的 に管理し、維持しなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、食堂の営業許可を取得し、衛生的に管理し、維持します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:食品衛生法は、食堂の「飲食店営業許可」取得を義務付けています。2021年6月からは、HACCPの考え方に沿った衛生管理も全ての食品事業者に義務化されました。
国際人権基準:労働者の健康と安全な食環境の確保は、ILO条約やUNGPsが示す企業の基本的な人権尊重責任に含まれます。本コミットメントは、これらの国際原則の実践です。
コミットメント達成の意義
法的に許可され、衛生的に管理された食堂の運営は、労働者の健康を守り、食中毒などのリスクを予防するために不可欠です。これは、労働者の福利厚生を向上させ、安心して働ける環境を提供します。企業の社会的責任(CSR)と公衆衛生への貢献を示し、ステークホルダーからの信頼を高めることに繋がります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 飲食店営業許可証
食堂が食品衛生法に基づき、保健所から正式に営業を許可されていることを証明します。
- 管轄保健所が発行した飲食店営業許可証の写し。
- 許可証が有効期限内であることの確認。
- 食堂内の見やすい場所への許可証の掲示写真。
2. 施設基準への適合
食堂の構造・設備が、地方自治体の条例で定める衛生基準を満たしていることを示します。
- 設備配置がわかる施設図面。
- 二槽シンク、給湯設備、冷蔵設備、換気扇等が設置されていることを示す写真。
- 保健所による施設検査報告書。
3. 食品衛生責任者の選任
衛生管理の中核を担う、資格を持った責任者が法に基づき選任されていることを証明します。
- 食品衛生責任者の選任書。
- 講習会修了証などの資格証明書の写し。
- 責任者の氏名を食堂内に掲示している写真。
4. HACCP衛生管理計画書
HACCPの考え方に沿った予防的な衛生管理システムが構築されていることを示します。
- 食堂の規模やメニューに合わせた衛生管理計画書(HACCPプラン)。
- 危害要因分析、重要管理点(CCP)の設定がわかる文書。
- モニタリング方法、是正措置、記録方法を定めた手順書。
5. HACCP実施記録
衛生管理計画が日々実践され、PDCAサイクルが機能していることを証明します。
- 冷蔵庫の温度、食材の中心温度等のモニタリング記録。
- 調理器具の消毒記録、手洗い実施記録。
- 基準逸脱時の是正措置の記録。
6. 従業員の定期健康診断記録
食品取扱者が健康な状態で業務に従事していることを、法に基づき証明します。
- 全食堂従業員の健康診断個人票(年1回以上)。
- 法定の検査項目が網羅されていることの確認。
- 異常所見に対する事後措置の記録。
7. 従業員の検便記録
食中毒の主要な原因となる病原菌の保菌者がいないことを確認する、極めて重要な予防措置です。
- 月1回以上の検便実施記録(O157等を含む)。
- 検査機関発行の結果報告書。
- 冬季のノロウイルス検査記録(推奨)。
8. 日々の健康チェックシート
感染症の初期症状を捉え、職場での拡散を未然に防ぐ体制が整っていることを示します。
- 従業員による始業前の健康状態(下痢、嘔吐等)の自己申告・記録。
- 毎日確実に記入されていることの確認。
- 体調不良者が出た場合の報告・対応フローと記録。
9. 清掃・消毒の記録
食堂施設と調理器具が、常に清潔で衛生的な状態に保たれていることを証明します。
- 調理場、食堂スペース、トイレ等の清掃・消毒スケジュールと実施記録。
- 使用した洗剤や消毒剤の種類、担当者の署名入り記録。
- 定期的な害虫駆除の契約書と実施報告書。
10. 設備の保守・点検記録
厨房設備が安全かつ衛生的に機能し、故障によるリスクを予防していることを示します。
- 冷蔵庫、冷凍庫、加熱調理器、換気扇等の定期点検・保守記録。
- 専門業者による点検報告書や修理記録。
- 換気装置の性能検証報告書。
11. 従業員への衛生教育記録
従業員の衛生意識と知識を高め、人為的ミスによるリスクを低減していることを示します。
- 食品の安全な取り扱い、手洗い、HACCP等に関する定期的な教育・訓練記録。
- 新規採用者や業務内容変更者への教育記録。
- 研修資料、参加者名簿、理解度テストの結果。
12. 労働者の参加とフィードバック
現場の声を衛生管理に活かし、継続的な改善に繋げていることを証明します。
- 食堂の衛生に関する従業員からの意見・提案・苦情の収集記録。
- 安全衛生委員会での食堂に関する議題の議事録。
- フィードバックに基づき改善措置を講じた記録。
統合的証拠によるコンプライアンスの証明
食堂の営業許可取得と衛生的な管理・維持の証明は、単一の文書では不可能です。営業許可証という「静的」な証拠に加え、HACCPの計画・実施記録、従業員の健康管理記録、日々の清掃・点検記録といった「動的」な証拠を組み合わせることが不可欠です。
これらの証拠を統合したポートフォリオは、企業が法的要件を満たすだけでなく、予防的かつ体系的なアプローチで労働者の健康と安全を積極的に保護していることを示します。これは、企業の社会的責任と持続可能性を支える重要な基盤となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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