JASTI 5-18-7の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-18-7 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、食堂の従業員に健康診断を実施し、記 録を保持しなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、食堂の労働者等に健康診断を実施し、記録を保持します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働安全衛生法は一般・特殊健康診断を、食品衛生法と「大量調理施設衛生管理マニュアル」は検便(月1回以上)や日々の健康チェックを義務付けています。記録は5年以上の保管が求められます。
国際人権基準:ILO第155号条約やUNGPsは、労働者の健康を保護する企業の責任を強調しています。徹底した健康管理は、企業のデュー・ディリジェンス(相当な注意義務)の中核です。
コミットメント達成の意義
食堂従業員の厳格な健康管理は、従業員自身の健康を守るだけでなく、食中毒などの公衆衛生上のリスクを未然に防ぎ、全労働者の安全な食環境を確保するために不可欠です。法令遵守はもちろん、企業の高い安全意識と社会的責任を示すことで、信頼性を高め、持続可能な事業運営の基盤を強化します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 定期健康診断の記録
労働安全衛生法に基づき、全従業員の健康状態を定期的に把握していることを証明します。
- 雇入れ時および年1回の定期健康診断個人票(法定11項目を含む)。
- 医師による就業上の措置に関する意見の記録。
- 記録の5年間以上の保管体制。
2. 健康診断結果報告書(労基署)
従業員50人以上の事業場として、法的報告義務を履行していることを示す決定的な証拠です。
- 労働基準監督署の受付印が押された定期健康診断結果報告書の控え。
- 特殊健康診断やストレスチェックの報告書控え(該当する場合)。
3. 検便の実施記録
食中毒予防の最重要措置として、無症状保菌者を発見・管理していることを証明します。
- 月1回以上の検便(O157等)の実施記録。
- 冬季のノロウイルス検査の実施記録(推奨)。
- 陽性反応時の就業制限や治療・復職に関する記録。
4. 始業前の日常健康チェック
日々のデュー・ディリジェンスとして、体調不良者の就業を未然に防いでいることを示します。
- 従業員による毎日の健康チェックシートまたはログ。
- 発熱、下痢、嘔吐等の有無の確認記録。
- 異常発見時の管理者への報告と、対応措置の記録。
5. 健康管理記録の保管体制
法定保存期間(5年以上)を遵守し、長期的な責任を果たしていることを証明します。
- 健康診断個人票、検便記録等を法定期間保管しているファイリングシステム。
- 機密情報を保護するためのアクセス管理記録。
- 監査時に迅速に提示できる管理体制。
6. 結果の活用と職場改善
健康診断がデータ駆動型の職場環境改善に繋がり、予防的なアプローチを実践していることを示します。
- 匿名化された健康診断結果の集計・分析報告書。
- 安全衛生委員会で健康課題を議論した議事録。
- 結果に基づき実施された職場改善策(健康増進プログラム等)の記録。
7. 特殊健康診断の記録
特定の有害業務(強力な洗浄剤等)に従事する労働者の健康を、特別に管理していることを示します。
- 該当業務のリスクアセスメント記録。
- 特殊健康診断の個人票(法定期間保管)。
- 労働基準監督署への結果報告書控え。
8. ストレスチェックの記録
従業員50人以上の事業場として、メンタルヘルス対策を法に基づき実施していることを証明します。
- 年1回のストレスチェック実施記録。
- 高ストレス者への医師による面接指導の申し出記録。
- 労働基準監督署への結果報告書控え。
9. 食品衛生責任者の資格と役割
衛生管理体制の信頼性を担保する、有資格者の選任と活動を証明します。
- 食品衛生責任者の資格証明書(修了証等)。
- 保健所への選任届出書の控え。
- 衛生管理計画の監督や従業員指導など、職務遂行の記録。
10. HACCP衛生管理計画書
食品安全に対する科学的かつ体系的なアプローチを実践していることを示す根幹文書です。
- 食堂の業務に合わせたHACCP計画書。
- 定期的な見直しと更新の履歴。
- 計画書と日々のモニタリング記録との整合性。
11. 従業員への衛生教育記録
従業員が必要な知識とスキルを持ち、安全衛生文化が浸透していることを示します。
- 食品衛生、個人衛生、健康管理に関する定期的な教育記録。
- 参加者全員の自筆署名入り名簿。
- 訓練内容の理解度を確認した記録。
12. 内部監査と是正措置の記録
衛生管理システムが継続的に監視・評価され、改善されていることを証明します。
- 食堂の衛生に関する内部監査チェックリストと報告書。
- 発見された不備と、それに対する是正措置の完了記録。
- 改善前後の比較写真。
生きたシステムとしての健康管理体制
食堂労働者の健康診断に関するコミットメントの証明は、個々の記録の提示だけでは完結しません。健康診断の結果が職場環境の改善に繋がり、日々の衛生管理(検便、健康チェック)が徹底され、それらがHACCP計画や従業員教育と連携していること、つまり「生きたシステム」として機能していることを示すことが重要です。
これらの証拠を統合的に管理・提示することで、企業が労働者の健康と公衆衛生に対し、法的義務を超えた真摯な責任を果たしていることを、説得力をもって証明できます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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