JASTI 5-19の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-19 原文
工場は、所在地において流行疾病等によるロックダウンが発生した場合、 工場所在地の行政機関が定める予防措置を実施しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、流行疾病等によるロックダウンが発生した場合、事業場所在地の行政機関が定める予防措置を実施します。」
補足説明:法的・国際的枠組み
国内法:感染症法に基づき、行政機関(国、都道府県、保健所等)は外出自粛や施設の使用制限等の予防措置を要請・指示できます。事業者は、労働安全衛生法の下で労働者の健康と安全を確保する全般的な義務を負います。
国際基準:ILO第155号条約は、ロックダウンのような「非常事態」への対処を事業者に求めています。また、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)は、企業に人権デュー・ディリジェンスの実践を求め、特に危機下における労働者の健康と安全の確保を重視しています。
コミットメント達成の意義
パンデミックのような公衆衛生上の危機は、事業の継続性と労働者の生命・健康を同時に脅かします。行政機関の定める予防措置を迅速かつ確実に実施することは、感染拡大を防止し、地域社会の一員としての責任を果たすと共に、従業員と事業そのものを守るための不可欠な行動です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 危機管理・事業継続計画(BCP)
パンデミックやロックダウンを想定した、事前の計画と体制が整備されていることを示します。
- 流行疾病シナリオを含むBCP文書。
- 緊急対策本部の組織図と責任者の任命記録。
- BCPの定期的なレビューや訓練の実施記録。
2. 行政機関との連携体制
行政からの指示・要請を迅速かつ正確に把握し、対応する仕組みがあることを証明します。
- 管轄の保健所や労働基準監督署等の連絡先リスト。
- 行政からの指示・要請の収集と社内伝達に関する手順書。
- 実際に行政から受領した通知や指導文書。
3. 衛生管理・健康モニタリング
感染拡大防止のための具体的な予防措置が、日常的に実施されていることを示します。
- 施設内の消毒・清掃の実施計画とチェックリスト。
- 従業員の検温や健康状態の確認記録。
- 体調不良者の出社制限や受診勧奨の記録。
- 換気設備の点検・保守記録。
4. 職場環境・勤務形態の変更
物理的距離の確保など、感染リスクを低減するための具体的な職場環境の改善策を示します。
- 座席配置変更やパーテーション設置を示すレイアウト図。
- 時差出勤や交代勤務のシフト表。
- 在宅勤務規程と実施記録。
5. PPEの提供と管理
行政機関の指示やリスク評価に基づき、必要な保護具を適切に提供・管理していることを示します。
- マスク、手袋、フェイスシールド等の購入・在庫記録。
- 従業員への配布記録。
- PPEの正しい使用方法に関する教育記録。
6. 従業員への情報提供と研修
従業員が正確な情報を得て、不安を軽減し、適切な予防行動がとれるように支援していることを示します。
- 感染症の知識や予防策に関する研修の実施記録。
- 会社の対応方針や行政措置に関する社内広報資料。
- 多言語対応の案内文書(該当する場合)。
7. メンタルヘルスサポート
ロックダウンによる従業員のストレスや不安に対応する体制があることを示します。
- 相談窓口の設置と周知の記録。
- オンラインカウンセリングサービスの提供記録。
- ストレス軽減に関する情報提供の記録。
8. 苦情処理メカニズム
従業員が安全衛生上の懸念や差別等を、報復の恐れなく報告できる仕組みがあることを示します。
- 秘密が保持される相談・通報窓口の設置記録。
- 苦情への対応プロセスを定めた規程。
- (匿名化された)対応事例の記録。
9. サプライチェーンとの連携
自社だけでなく、サプライヤーにも予防措置の遵守を働きかける、責任ある企業行動を示します。
- サプライヤー行動規範(流行疾病対応条項を含む)。
- サプライヤーへの予防措置遵守の要請記録。
- サプライヤーの対応状況に関する監査やアンケートの結果。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
ロックダウン時の対応は、BCP(計画)、行政との連携(情報)、具体的な予防措置(実行)、従業員へのケア(支援)、そして継続的な見直し(改善)といった、多岐にわたる活動の連鎖によって成り立ちます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、予期せぬ危機に対して、企業が組織として計画的かつ責任ある行動をとれる体制を構築していることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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