JASTI 5-3-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-3-1 原文
⼯場は、⼯場所在地の法令に従い、有効な建築許可を取得し、消防検査、必要な場合は環境検査を受けなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、工場所在地の法令に従い、有効な建築許可を取得し、消防検査、必要な場合は環境検査を受けます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:建築基準法、消防法、都市計画法、工場立地法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法など、多岐にわたる法令が工場の設立と操業を規制しています。
国際人権基準:安全で健康的な労働環境への権利は、国際的な人権基準の重要な要素です。法令遵守は、従業員と地域社会に対する企業の基本的な責任です。
このコミットメントは、工場の物理的な安全性と環境への配慮を法的に保証し、持続可能な事業運営の基盤を確立することを目的とします。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 建築の法的基盤
建物の計画と完成物が建築基準法に適合していることを証明します。
- 建築計画の適法性を示す「確認済証」。
- 完成建物の適法性を示す「検査済証」(事業継続性の鍵)。
- 増改築があった場合は、その部分に関する新たな許可書類。
- 検査済証がない場合は、第三者機関による「法適合状況調査報告書」。
2. 土地利用の法規制
工場が立地する土地の利用が、都市計画法や工場立地法に準拠していることを示します。
- 工場の用途地域(準工業、工業、工業専用地域)がわかる公的書類。
- 特定工場の場合、工場立地法に基づく届出書(緑地面積率等)。
- 土地造成が伴う場合は「開発許可証」、それ以外は「建築許可証」。
3. 消防法:設備点検と報告
設置された消防用設備を定期的に点検し、消防署へ報告する義務を果たします。
- 所轄消防署の受理印がある「消防用設備等点検結果報告書」の控え。
- 機器点検(6ヶ月毎)と総合点検(1年毎)の実施記録。
- 工場の用途に応じた報告頻度(特定防火対象物:年1回、非特定:3年に1回)の遵守記録。
4. 消防法:防火管理体制
設備だけでなく、「人」と「計画」からなる実効性のある防火管理体制を構築します。
- 「防火管理者選任(解任)届出書」の控え。
- 工場の実態に即した「消防計画」の届出書控え。
- 消防計画に基づいた避難・消火訓練の実施記録(写真、報告書)。
5. 消防法:違反是正プロセス
消防署からの指摘に対し、計画的に是正措置を講じ、完了報告を行います。
- 立入検査結果通知書。
- 消防署に提出した「是正計画書」。
- 是正措置の実施記録(工事契約書、写真等)。
- 是正完了後に提出した「改善報告書」。
6. 環境法:水質汚濁防止
河川や下水道への排水が、法令で定められた基準を遵守していることを示します。
- 特定施設の設置届出書。
- 定期的に実施した「水質検査結果報告書」。
- 測定頻度や方法が法令要件を満たしていることの証明。
- 排水処理設備の保守点検記録。
7. 環境法:大気汚染防止
ばい煙や粉じん、VOC等の排出が、法令基準内であることを証明します。
- ばい煙発生施設等の設置届出書。
- 定期的な「大気汚染物質測定記録」。
- 排出基準を遵守していることを示すデータ。
- 排出ガス処理設備の保守点検記録。
8. 廃棄物・化学物質管理
排出事業者責任を全うし、廃棄物と化学物質を適正に管理・報告します。
- 許可業者との産業廃棄物処理委託契約書。
- 適切に運用されている「産業廃棄物管理票(マニフェスト)」の控え。
- PRTR法対象事業者の場合、国への排出・移動量届出書の控え。
9. 土壌汚染対策
将来の事業リスクとなる土壌汚染に対し、法に基づき適切に対応します。
- 土壌汚染対策法に基づく調査義務の発生有無を確認した記録。
- 義務が発生した場合に実施した「土壌汚染状況調査報告書」。
- 自主的に土壌汚染調査を実施した場合はその報告書。
- 汚染が確認された場合の浄化工事の計画・完了報告書。
10. 作業環境測定
従業員が働く「内部」環境の安全性を、客観的な測定により確保します。
- 有害物質等を扱う作業場での「作業環境測定結果報告書」。
- 測定結果に基づく管理区分(第Ⅰ~Ⅲ)の評価と、それに応じた改善措置の記録。
- 特別管理物質の作業記録や測定結果(30年間保存)。
11. 統合マネジメントシステム
複雑な法的要求を体系的に管理するため、国際規格を活用します。
- ISO 14001(環境)の認証書、および順守義務を特定・評価した記録。
- ISO 45001(労働安全衛生)の認証書、およびリスクアセスメントの記録。
- 食品工場の場合、ISO 22000 / FSSC 22000の認証書。
12. 継続的改善と監査
法令遵守の状況を定期的に自己点検し、法改正に動的に対応します。
- 内部監査の年間計画書、報告書、および是正措置の記録。
- 法改正情報の収集・展開プロセスを定めたマニュアル。
- 法改正に伴う社内規程の改訂履歴。
コンプライアンスを競争優位へ
工場の建築、消防、環境に関する法令遵守は、単なる義務ではなく、企業のレジリエンスと社会的信頼性の基盤です。特に「検査済証」の有無は、事業継続性を左右する重要なリスク指標となります。
本インフォグラフィックで示した証拠を体系的に管理し、ISO等の枠組みを活用して継続的な改善プロセスを構築することは、リスクを回避するだけでなく、ESG評価の向上やステークホルダーからの信頼獲得に繋がり、企業の持続的な価値創造を可能にします。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。