JASTI 5-7-2の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-7-2 原文
非常口は、業務中常に施錠してはならず(もしくは自動解錠や一の動作で 解錠できる状態であること)、外開きであることが望ましい。
達成すべきコミットメント
「私たちは、業務中常に、非常口を施錠されていない状態に保ちます。非常口は、自動または一の動作で解錠でき、外開きであるものを設置するよう努めます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
国内法:消防法、建築基準法、労働安全衛生法は、事業者に避難施設の維持管理、避難経路の確保、労働者の安全配慮義務を課しています。非常口の適切な管理はこれらの法規の趣旨から導かれる絶対的な義務です。
国際基準:ILO第155号条約や国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、安全で健康的な労働環境を基本的人権と位置づけ、企業に緊急事態への準備と対応を求めています。
コミットメント達成の意義
緊急時における労働者の安全な避難経路の確保は、生命を守るための根幹であり、企業の最も基本的な社会的責任の一つです。適切に管理された非常口は、パニック時においても迅速な脱出を可能にし、人命に関わる重大なリスクを低減します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と計画書
非常口の安全管理に関する明確な方針と具体的な計画を文書化します。
- 非常口を常時施錠しない方針を明記した消防計画書。
- 緊急時の避難誘導手順を定めた文書。
- 外開きの非常口設置を原則とする、企業の安全衛生方針や内部設計基準書。
2. 設計・設置の証明
非常口が法令や基準に則って設計・設置されていることを証明します。
- 建築確認済証および検査済証。
- 非常口の仕様(外開き、パニックバー等)が明記された、承認済みの建築図面。
- 防火設備としての非常口の仕様書や設置届。
3. リスクアセスメント
非常口に関する潜在的リスクを特定し、管理措置を講じます。
- 非常口の施錠や避難経路の閉塞をハザードとして特定したリスクアセスメント記録。
- 解錠機構の故障リスクと、その管理措置(定期点検等)を定めた記録。
- 内開き扉による避難時のボトルネックリスクを評価した記録。
4. 日常の運用管理
非常口が常に機能する状態にあることを、日々の業務の中で確認・維持します。
- 非常口の施錠状態や障害物の有無を確認する、日付と署名入りの日常安全巡回チェックリスト。
- 鍵の管理規定や、非常口周辺に物品を置かないルールを定めた手順書。
5. 定期点検と保守
専門家による定期的な点検を通じて、非常口の機能性を保証します。
- 消防法に基づく消防用設備等点検結果報告書(消防署の収受印付き)。
- 防火戸や解錠機構の作動確認を含む、防火設備点検の記録。
- 点検で発見された不具合に関する修理・保守の記録。
6. 教育と訓練
全従業員が非常口の重要性を理解し、正しく使用できるよう訓練します。
- 非常口の場所、避難経路、施錠禁止の重要性に関する安全衛生教育の実施記録。
- 訓練教材、参加者名簿、実施日時を記載した訓練記録。
- 解錠方法(手動操作含む)に関する従業員への周知記録。
7. 避難訓練と検証
定期的な訓練を通じて、非常口が実際に機能することを検証し、対応能力を向上させます。
- 定期的な避難訓練の実施計画と結果報告書。
- 訓練中に非常口が迅速かつ容易に開放できたことの確認記録。
- 訓練で発見された問題点(例:開放の遅れ)と、その改善策の実施記録。
8. 是正措置と改善
発見された不備に迅速に対応し、再発防止と継続的な改善に繋げます。
- 巡回や監査で発見された不備(施錠、障害物等)に関する是正措置報告書。
- 原因分析と、具体的な再発防止策が詳述された記録。
- 既存の内開き扉を外開きに改修した際の計画書や修繕記録。
9. 物理的・視覚的証拠
実際の現場状況を写真や動画で記録し、遵守状況を視覚的に示します。
- 日付入りで、業務中に非常口が施錠されていない状態を示す写真。
- パニックバー等の解錠機構が明確にわかる写真。
- 扉が外側に開くことを示す写真や短い動画。
- 避難経路図の掲示状況がわかる写真。
10. 監査とレビュー
管理システムが有効に機能しているかを定期的に評価し、見直します。
- 非常口の管理状況を含む、内部または外部監査の報告書。
- 監査で発見された不適合事項に対する是正処置計画と完了報告。
- 経営層によるマネジメントレビューの議事録(避難訓練の結果や監査結果のレビュー)。
包括的なコンプライアンスと継続的改善
非常口の安全確保は、単に設備を設置するだけでなく、設計(静的コンプライアンス)と、日々の運用・維持管理(動的コンプライアンス)が一体となった管理システムによって達成されます。
本報告書で示された証拠を体系的に統合・維持し、訓練や監査から得られた学びを次の改善に繋げるサイクルを回し続けることが、法的義務と国際的な人権尊重責任を果たし、すべての労働者の生命を守る鍵となります。