JASTI 5-8の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-8 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、負傷者の手当に必要な救急用具及び材 料を常備し、その備付け場所及び使用方法を従業員に周知しなければなら ない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、負傷者の手当に必要な救急用具及び材料を常備し、その備付け場所及び使用方法を労働者等に周知します。」
補足説明:法的根拠とリスクベースのアプローチ
労働安全衛生規則 第633条:救急用具の常備、設置場所と使用方法の周知を事業者に義務付けています。これが本コミットメントの直接的な法的根拠です。
リスクアセスメントに基づく選定:近年の法改正により、事業者は「想定される労働災害に応じ、必要なものを備える」ことが求められています。画一的な品目ではなく、自社の作業リスク(切り傷、火傷、化学物質曝露など)を評価し、それに対応した用具を選定することが重要です。
コミットメント達成の意義
労働災害はいつ発生するか予測できません。適切に選定・管理された救急用具を常備し、全従業員がその場所と使い方を知っていることは、万が一の際に被害を最小限に食い止め、労働者の生命と健康を守るための最後の砦となります。これは企業の安全配慮義務の根幹です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. リスクアセスメント記録
「なぜその救急用具なのか」を証明する最重要証拠。自社の災害リスクに基づき用具を選定した根拠を示します。
- 作業ごとの危険性(切り傷、火傷等)の特定とリスク評価の記録。
- 評価に基づき、必要な救急用具(消毒液、絆創膏、火傷薬等)を決定したプロセス記録。
2. 救急用具リストと現物確認
「何が、どこに、どんな状態で」備えられているかを示し、「常備」のコミットメントを物理的に証明します。
- 各救急箱の内容物(品目、数量、有効期限)を記載したリスト。
- リストと現物が一致し、有効期限内であることの確認記録(写真など)。
- 障害物がなく、容易にアクセスできる場所に設置されている写真。
3. 定期点検と補充の記録
救急用具が「常に使用可能」な状態に維持されている、継続的な管理体制を示します。
- 月次など、定期的な点検の実施を示すチェックリスト(日付、点検者署名、確認項目)。
- 不足品や期限切れ品を補充・交換した記録(購入伝票、ログなど)。
4. 場所・使用方法の周知
情報が全労働者に「浸透」し、緊急時に誰でもアクセスできる状態であることを証明します。
- 設置場所を示す標識(緑十字など)や、フロアマップの写真。
- 場所や使用方法を周知するための掲示物や、教育資料。
- 労働者へのインタビューによる理解度の確認記録。
5. 応急手当の訓練記録
労働者が実際に用具を「使える」能力があることを示し、緊急時対応能力の高さを証明します。
- 応急手当や心肺蘇生法(CPR)、AED使用に関する訓練の実施計画と報告書。
- 訓練の参加者リスト、内容、講師、日付を記録した文書。
- 訓練修了者への修了証の写し。
6. 応急手当の手順書
緊急時に誰でも、落ち着いて適切な行動がとれるよう、具体的な手順を定めていることを示します。
- 緊急時の行動手順、連絡網、応急手当の基本を記載したマニュアル。
- 医療機関への搬送基準などを定めた文書。
7. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として救急体制の維持・改善に取り組んでいることを証明します。
- 救急用具の妥当性や訓練結果について審議した議事録。
- 委員会での決定に基づき、救急体制が改善された記録。
8. 労働災害・事故報告書
実際の災害事例から学び、救急体制の有効性を評価し、改善に繋げるPDCAサイクルを示します。
- 労働基準監督署へ提出した労働者死傷病報告。
- 発生した負傷と、それに対する応急手当の内容を記録した社内報告書。
- 事故レビューと、再発防止・救急体制の見直し記録。
9. 労働安全衛生方針
経営層が労働者の安全と健康を最優先し、緊急事態への備えを約束していることを示します。
- トップマネジメントが署名した、全社的な安全衛生方針文書。
- 緊急事態への対応や応急手当に関するコミットメントが明記された箇所。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
救急用具のコンプライアンスは、リスクアセスメント(計画)、点検・訓練(実行)、事故報告レビュー(評価)、体制の見直し(改善)というPDCAサイクルが機能していることで証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、単なる「救急箱の設置」に留まらない、労働者の生命と健康を最優先する、生きた安全衛生管理体制が構築されていることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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