JASTI 5-9-2の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-9-2 原文
工場は、特段の定めがない限り、業務上使用を義務付けているユニフォー ムや靴などの費用を、従業員から徴収してはならない。なお、故意にユニ フォーム等を毀損した場合に、実損額の範囲内で従業員から徴収すること を妨げるものではない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、特段の定めがない限り、業務上使用を義務付けているユニフォームや靴などの費用を、労働者等から徴収しません。なお、労働者等が故意にユニフォーム等を毀損した場合には、実損額の範囲内で、労働者等から費用を徴収することはあります。」
補足説明:法的根拠と解釈
賃金全額払いの原則(労働基準法第24条):業務上必須の物品の費用を労働者に負担させることは、実質的な賃金控除と見なされる可能性があります。これが「原則無償」の根拠です。
例外規定の厳格な要件:費用を徴収するには、就業規則への明記や労使協定の締結など、極めて限定的な法的要件を満たす必要があります。「故意の毀損」の場合も、客観的な証拠に基づく厳格な証明が求められます。
コミットメント達成の意義
業務に必要な費用を企業が負担することは、労働者の生活を守り、実質的な賃金を保障する上で不可欠です。公正で透明性のある費用負担ルールは、労働者との信頼関係を構築し、健全な労使関係の基盤となります。これは法的リスクを軽減するだけでなく、企業の社会的責任を果たす上でも重要です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 就業規則・社内規定
費用負担に関する基本ルールを公的に確立していることを示す最重要文書です。
- ユニフォーム等の費用は原則会社負担である旨を明記した就業規則。
- 労働基準監督署への届出受理印のある控え。
- 労働者代表の意見書。
2. 労使協定(賃金控除時)
例外的に賃金から費用を控除する場合、その法的根拠が確立されていることを証明します。
- 労働基準法第24条に基づく有効な労使協定書。
- 控除対象、金額、理由、期間などが明記されていること。
- 労働者代表の署名・捺印があること。
3. 雇用契約書・労働条件通知書
個々の労働者に対し、費用負担に関する条件が透明かつ公正に合意されていることを示します。
- 新規採用者に交付する雇用契約書のテンプレート。
- ユニフォーム費用に関する不当な負担条項がないことの確認。
4. 給与明細・会計記録
ルールが実務に反映され、会社が費用を負担していることを客観的な財務データで裏付けます。
- 無作為抽出した労働者の給与明細(不当な控除がないことの確認)。
- ユニフォーム等の購入費用を会社経費として計上した会計帳簿や領収書。
5. 故意の毀損に関する調査記録
例外規定を適用する際に、公正かつ厳格な手続きを踏んでいることを証明します。
- インシデント報告書と、毀損が「故意」である客観的証拠(写真、証言等)。
- 労働者本人への事情聴取と弁明の機会を与えた記録。
6. 実損額の算定根拠
費用請求が懲罰的でなく、実際の損害額に基づいていることを客観的に示します。
- 毀損した物品の購入時価格がわかる領収書。
- 使用期間に応じた減価償却を考慮した、公正な実損額の計算書。
- 労働者が請求額に同意したことを示す書面。
7. 貸与・返却管理台帳
ユニフォーム等が資産として体系的に管理されていることを示します。
- 各従業員への貸与日、返却日、交換履歴などを記録した台帳やシステム記録。
- 破損時の状況(故意、過失、通常損耗など)の記録。
8. 従業員への教育・周知記録
費用負担のルールが全従業員に正しく伝わり、理解されていることを証明します。
- 新入社員研修や定期教育で、費用負担ルールを説明した際の資料や議事録。
- ルールを記載した規定の回覧記録や、イントラネットへの掲載履歴。
9. リスクアセスメント(保護具)
ユニフォーム等が安全保護具の性質を持つ場合、その必要性がリスク評価で判断されたことを示します。
- 滑り防止靴や保護衣の必要性を、作業リスク評価に基づいて決定した記録。
- 該当保護具の選定理由や仕様を明記した文書。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
ユニフォーム等の費用負担に関するコンプライアンスは、就業規則や労使協定といった法的文書から、会計記録、個別の調査記録、教育記録まで、複数の証拠を組み合わせることで証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、企業が法令遵守はもちろん、その背景にある労働者の権利保護と公正な労働慣行の精神を実践していることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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