JASTI 6-1-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-1-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、従業員名簿を作成し、以下の項目を明 記するとともに、最新の状態に維持しなくてはならない。 従業員の氏名、生年月日、性別、身分証明書番号(該当国のみ)、戶籍 (該当国のみ)、住所、業務の種類、履歴(該当国のみ)、採用年月日、 退職日及びその事由(該当国のみ)、死亡年月日と事由(該当国のみ) 注:日本の場合、(該当国のみ)となっているものは義務ではない。ま た、「業務の種類」については、常時 30 人未満の労働者を使用する事業者 は義務ではない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、労働者名簿を作成し、以下の項目を明記するとともに、最新の状態に維持します。(1) 氏名 (2) 生年月日 (3) 履歴 (4) 性別 (5) 住所 (6) 従事する業務の種類 (7) 雇入の年月日 (8) 退職の年月日及びその事由 (9) 死亡の年月日及びその原因」
補足説明:法的根拠とプライバシー保護
日本の国内法:労働基準法第107条、同法施行規則第53条により作成が義務付けられています。賃金台帳・出勤簿と並ぶ「法定三帳簿」の一つです。
個人情報保護法:労働者名簿には多くの個人情報が含まれるため、その取り扱いは個人情報保護法の規制を強く受け、厳格な安全管理措置が求められます。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 名簿様式と基本規程
法定9項目を網羅した労働者名簿の様式を定め、管理方法に関する社内規程を整備します。
- 法定項目を完備した労働者名簿のテンプレート(様式第19号準拠)。
- 労働者名簿の作成・更新・保管に関する社内規程やマニュアル。
2. 記載事項の正確性担保
各記載項目が、信頼できる情報源に基づき、正確に記録されていることを保証します。
- 雇用契約書、採用通知書、公的身分証明書の確認記録。
- 社内異動辞令、昇格通知書、職務記述書。
- 退職願、解雇通知書、死亡診断書の確認記録。
3. 更新プロセスの確立
従業員からの情報変更の申し出を受け付け、記録するための明確な手順を定めます。
- 「身上異動届」「住所変更届」などの標準化された様式。
- 情報変更の申請・承認プロセスを定めた標準作業手順書(SOP)。
- 従業員への周知文書(ハンドブック、イントラネット等)。
4. 「遅滞なき訂正」の実践
情報に変更が生じた場合、速やかに名簿を更新し、その履歴を記録します。
- 従業員からの変更届の提出日と名簿の更新日が記録されたログ。
- システムで管理している場合の監査証跡(オーディットトレイル)。
5. 定期的な内部監査
労働者名簿の記載内容の正確性や管理状況を定期的に自己点検し、是正します。
- 内部監査の実施記録(計画書、報告書、是正措置)。
- 監査時に使用したチェックリスト(厚労省の自主点検票など)。
6. 個人情報収集の同意
利用目的を明示した上で、従業員から個人情報の収集・利用に関する同意を適法に取得します。
- 本人署名済みの「個人情報取扱いに関する同意書」。
- 従業員に配布したプライバシー通知/声明。
- 同意取得に関する社内ガイドライン。
7. 組織的・人的安全管理
情報管理の責任体制を明確にし、従業員への教育を通じて情報漏洩リスクを低減します。
- 個人情報保護責任者の任命記録。
- 従業員との秘密保持契約書。
- 個人情報保護に関する研修の実施記録(参加者リスト、資料)。
8. 物理的・技術的安全管理
物理的な盗難や不正アクセスからデータを保護するための具体的な措置を講じます。
- 施錠可能なキャビネットへの保管(紙媒体)。
- アクセス制御(ID、パスワード、多要素認証)。
- データの暗号化、ファイアウォールの導入。
- マルウェア対策ソフトの導入と更新記録。
9. 保管と廃棄の管理
法定保存期間(5年)を遵守し、期間満了後は安全かつ確実に廃棄します。
- データ保存・廃棄に関する方針書。
- 退職者名簿の保存期間管理記録。
- 廃棄手順書(シュレッダー処理、データ消去等)。
結論:統合的アプローチによる持続的コンプライアンス
労働者名簿の法的遵守は、単に名簿を作成するだけでなく、情報の正確性、適時性、そして厳格なデータ保護を確保する統合的なプロセスを通じて達成されます。堅牢な方針、明確な手順、継続的な教育、そして技術的な安全管理措置を組み合わせることで、企業は法的要件を満たし、従業員の権利を保護し、ステークホルダーからの信頼を維持することができます。これらの取り組みを定期的に見直し、改善し続けることが、持続可能なコンプライアンス体制の鍵となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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