JASTI 6-1-4 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-1-4 原文
工場は、妊娠、出産した従業員に対し、工場所在地の法令が定める休暇の 付与、労働時間の短縮、労働環境の改善などの措置を講じなければならな い。
達成すべきコミットメント
「私たちは、妊娠、出産した労働者等に対し、事業場所在地の法令が定める休暇の付与、労働時間の短縮、労働環境の改善などの措置を講じます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が、休暇、健康管理、不利益取扱いの禁止など、多層的な保護を定めています。
国際基準:ILO第183号(母性保護条約)や国連女子差別撤廃条約(CEDAW)が、母性保護を基本的な人権として位置づけています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と社内規程
妊娠・出産・育児に関する各種制度を就業規則等に明記し、全従業員に周知します。
- 産休・育休、子の看護休暇等を定めた就業規則の条文。
- 母性健康管理措置やハラスメント防止に関する社内規程。
- 制度を解説した従業員向けハンドブックやイントラネットの掲載内容。
2. 休暇制度の確実な運用
労働者からの申し出に基づき、産前産後休業や育児休業などを適正に付与します。
- 各種休暇の申請書と承認記録(匿名化サンプル)。
- 休暇期間中の勤怠記録や給与明細(匿名化サンプル)。
- 男女別の育児休業取得率や平均取得日数に関する統計データ。
3. 労働時間の調整
医師の指導や本人の請求に基づき、短時間勤務や時間外労働の制限などの措置を講じます。
- 短時間勤務や残業免除の申請・承認記録。
- 「母性健康管理指導事項連絡カード」の運用記録と対応実績。
- 育児時間の取得が反映された勤怠記録。
4. 健康と安全への配慮
妊娠中・出産後の労働者を、法令で定められた危険有害業務から隔離し、健康リスクを低減します。
- 危険有害業務を特定したリスクアセスメント記録。
- 軽易な業務への転換に関する方針と実施記録。
- 健康診断受診のための時間確保の承認記録。
5. 物理的環境の整備
妊娠中の労働者が休息でき、授乳中の労働者が安心して搾乳できる施設・設備を提供します。
- 横になれる休憩室の写真、設備リスト、利用案内。
- プライバシーが確保された搾乳室の写真、設備リスト、利用ガイドライン。
6. 不利益取扱いの禁止
妊娠・出産・育休取得等を理由とする解雇、降格、その他一切の不利益な取扱いを禁止します。
- マタハラ等を明確に禁止するハラスメント防止規程。
- 全従業員・管理職を対象としたハラスメント防止研修の実施記録。
- 休業取得者が評価で不利にならないことを定めた人事評価ガイドライン。
7. 相談・支援体制の構築
安心して相談できる窓口を設置し、対象者への個別周知と意向確認を徹底します。
- 人事部や産業保健スタッフによる相談窓口の案内。
- 制度の個別周知・意向確認の実施記録(面談記録、書面交付記録)。
- 苦情処理プロセスの文書化と運用実績。
8. モニタリングと改善
従業員サーベイ等を通じて制度の利用状況や満足度を把握し、継続的な改善に繋げます。
- 従業員満足度調査や両立支援に関するアンケート結果。
- 調査結果の分析と、それに基づく改善計画の策定・実行記録。
- 経営層による定期的なレビュー会議の議事録。
9. 外部検証と公的報告
公的な認定制度の取得や報告書での情報開示を通じて、取り組みの客観性と透明性を高めます。
- 「くるみん」「えるぼし」認定の認定証。
- サステナビリティレポート等での両立支援に関する実績開示。
- 法令に基づく男性の育休取得率の公表実績。
結論:安心して働き続けられる環境の構築
妊娠・出産した労働者の保護は、法令遵守はもちろんのこと、一人ひとりの労働者がキャリアを諦めることなく、安心して働き続けられる環境を積極的に構築する企業の姿勢が問われます。方針の整備から、休暇や各種制度の確実な運用、ハラスメントのない職場風土の醸成、そして継続的な改善サイクルまで、本報告書で示した多角的な証拠を通じて、企業はそのコミットメントの達成を具体的に証明することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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