JASTI 6-13-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-13-1 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、以下の全ての休暇及び報酬の算定を正確に計算しなければならない。 定休、休憩、手当、賞与、公的休暇、年次有給休暇、病休、退職金、並び に永年勤続報奨金など。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、定休、休憩、手当、賞与、公的休暇、年次有給休暇、病休、退職金、並びに永年勤続報奨金などの全ての休暇及び報酬の算定を正確に計算します。」
補足説明:法的根拠と国際人権
日本の国内法:労働基準法、最低賃金法、育児・介護休業法などが、休暇・報酬に関する最低基準を定めています。
国際人権基準:ILOの中核的労働基準や国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、公正な報酬、差別のない待遇、休息の権利などを保障しており、企業の倫理的責任の指針となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と体制の確立
休暇・報酬の公正な算定と人権尊重を約束する公式な方針を策定し、それを実行するための信頼できる勤怠・給与計算システムを構築します。
- 取締役会が承認した人権方針・労働方針。
- 給与計算・勤怠管理システムの仕様書・設定記録。
- 法令改正に対応したシステム更新の記録。
2. 就業規則と労働契約
全ての休暇・報酬制度について、その計算方法や条件を就業規則や労働契約書に明確に規定します。
- 各種手当、休暇、退職金等の規定を含む就業規則。
- 個別の労働条件を明記した労働契約書。
- 従業員への周知を証明する記録。
3. 勤怠・休憩・休日の管理
労働時間、休憩、休日(定休)を客観的な方法で正確に記録・管理し、労働者の休息権を保障します。
- タイムカードやICカード等の客観的な勤怠記録。
- 法定休日を特定した勤務カレンダーやシフト表。
- 休憩時間が確実に付与されていることを示す記録。
4. 基本給・手当の計算
基本給および各種手当(時間外、休日、深夜、通勤、家族手当等)を、法令及び社内規程に基づき正確に計算し、支払います。
- 各種手当の計算根拠を定めた賃金規程。
- 法定割増率を正しく適用した給与計算記録。
- 手当の内訳が明記された給与明細書。
5. 賞与・退職金等の算定
賞与、退職金、永年勤続報奨金について、差別なく公平な基準に基づき算定・支給します。
- 賞与規程、退職金規程(算定方法、支払条件を明記)。
- 業績評価と連動する場合、その評価記録。
- 退職金や報奨金の支払いを証明する記録。
6. 各種休暇の適正な管理
年次有給休暇、公的休暇、病気休暇などが法令や社内規程に従って適切に付与・管理されることを保証します。
- 年次有給休暇の管理簿(付与・取得・残日数を記録)。
- 有給休暇取得時の賃金計算が法令に準拠している記録。
- 病気休暇や慶弔休暇等の申請・承認記録。
7. 記録保持と透明性
休暇・報酬に関する全ての記録を法定期間(原則5年)安全に保管し、労働者が自身の情報を確認できるよう透明性を確保します。
- 賃金台帳等の法定帳簿の保管記録。
- 計算根拠が明確な給与明細書の交付記録。
- 記録保管に関する社内方針。
8. 人権DDと苦情処理
休暇・報酬制度における人権リスクを評価・軽減し、従業員が懸念を表明できる実効的な苦情処理制度を運用します。
- 労働者の権利に関する人権デューデリジェンスの実施記録。
- 多言語対応や匿名性を確保した相談・通報窓口の運用記録。
- 寄せられた苦情への対応・解決記録(匿名化)。
9. 監査と継続的改善
休暇・報酬の算定プロセスを定期的に監査し、その結果を外部へ報告することで、継続的な改善と説明責任を果たします。
- 給与計算や人事労務に関する内部・外部監査報告書。
- CSR/統合報告書等での関連KPI(有休取得率等)の開示。
- 監査結果に基づく是正措置計画と完了報告。
結論:公正な処遇と人権尊重の統合的実践
休暇と報酬の正確な算定は、企業の法的・倫理的責任の根幹です。明確な方針、信頼できるシステム、そして網羅的な記録管理を基盤とし、人権デューデリジェンスと継続的な監査を組み合わせることで、企業は法令遵守と人権尊重を両立させ、すべての従業員にとって公正で透明性の高い職場環境を構築することができます。これは、企業の持続可能な成長と社会からの信頼を得るための不可欠な取り組みです。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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