JASTI 6-13-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-13-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、有給休暇の取得に対し過度な制限を加 えてはならず、従業員が希望する日に取得できるよう配慮しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、有給休暇の取得に対し過度な制限を加えず、労働者等が希望する日に取得できるよう配慮します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法第39条が年次有給休暇の付与日数、労働者の時季指定権、年5日の取得義務などを定めています。
国際人権基準:ILO第132号条約は年次有給休暇を労働者の基本的な権利と位置づけており、世界人権宣言も「休息及び余暇の権利」を保障しています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 適法な休暇付与と管理
労働基準法に基づき、勤続年数や所定労働日数に応じた日数の年次有給休暇を正確に付与し、管理します。
- 法定要件を網羅した就業規則の休暇規定。
- 従業員ごとの付与日数、取得日、残日数を記録した年次有給休暇管理簿。
- パートタイム労働者への比例付与の計算記録。
2. 年5日の取得義務の履行
年10日以上付与される労働者に対し、年5日の有給休暇を確実に取得させるための仕組みを構築・運用します。
- 計画的付与に関する労使協定(該当する場合)。
- 取得日数が5日に満たない従業員への時季指定に関する意見聴取・協議の記録。
- 年休管理簿による全対象者の5日取得状況の追跡記録。
3. 過度な制限の不存在
休暇申請のプロセスを簡素化し、取得理由を問わないなど、労働者が権利を行使しやすい環境を整備します。
- 明確で負担の少ない申請手続きを定めた規程。
- 取得理由欄が任意または存在しない休暇申請書。
- 不合理に長い事前通知期間を課していないことを示す就業規則。
4. 時季指定権の尊重
原則として労働者が希望する日に休暇を取得できる権利(時季指定権)を尊重し、高い割合で承認します。
- 労働者の時季指定権を尊重する旨を明記した方針。
- 希望日通りに承認された休暇申請の割合を示す統計データ。
5. 時季変更権の抑制的運用
使用者による時季変更権の行使は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限定し、慎重に行います。
- 時季変更権の行使要件を厳格に定めた就業規則。
- 行使にあたり、代替日の協議を行った記録。
- 時季変更権の行使頻度が低いことを示すデータ。
6. 取得促進のための業務配慮
労働者が安心して休暇を取得できるよう、業務の属人化を防ぎ、代替要員の確保など、組織的な支援体制を構築します。
- 業務の標準化や複数担当者制の導入記録。
- クロストレーニングの実施計画と実績。
- 休暇取得を奨励する経営層からのメッセージや社内広報。
7. 管理職への教育と意識改革
管理職が部下の休暇取得を支援する責任を認識し、取得を妨げる言動を行わないよう、研修等を通じて指導します。
- 休暇管理に関する管理職向け研修の実施記録。
- 管理職の評価項目に部下の休暇取得支援を含めるなどの制度。
8. モニタリングとフィードバック
休暇取得率や取得パターンを定期的に監視し、従業員からのフィードバックを収集して、運用の改善に繋げます。
- 部門別・個人別の休暇取得状況に関する内部報告書。
- 休暇の取得しやすさに関する従業員アンケートの結果。
- フィードバックに基づき運用を改善した事例。
9. 苦情処理メカニズム
休暇取得に関する不利益な扱いや懸念について、従業員が安全に相談・申告できる窓口を設けます。
- 内部通報制度やハラスメント相談窓口の周知記録。
- 休暇取得に関連する相談・苦情の受付・対応記録(匿名化)。
結論:労働者の休息権を実質的に保障する文化の醸成
年次有給休暇の取得遵守は、単に法律で定められた日数を付与するだけでは不十分です。労働者がためらうことなく、希望する日に休暇を取得できる「配慮」と、それを可能にする「職場風土」が伴って初めて、コミットメントは真に達成されます。明確なルール、取得しやすいプロセス、そして休みを奨励する文化を醸成するための具体的な取り組みを体系的に示すことが、企業の信頼性と従業員のウェルビーイング向上に繋がります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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