JASTI 6-2-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-2-1 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、従業員を採用する際、書面等により労 働契約(雇用契約)を締結し、または労働条件通知書を交付しなければな らない。また、これらに変更があった場合は、従業員が確認できる形にし なくてはならない。 (派遣労働者は派遣元と労働契約を締結し、契約内容に合意しているこ と。) 労働契約(労働条件通知書)には、法令の要求を満たした内容が記載され ていなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、労働者等を採用する際、書面等により労働契約(雇用契約)を締結し、または労働条件通知書を交付します。これらに変更があった場合は、労働者等が確認できる形にします。派遣労働者については、派遣元と労働契約を締結し、契約内容に合意していることを確認します。労働契約(労働条件通知書)には、法令の要求を満たした内容を記載します。」
補足説明:法的根拠と国際人権
日本の国内法:労働基準法第15条が労働条件の明示を義務付けており、労働契約法が契約の基本原則を定めています。
国際人権基準:ILO中核的労働基準、世界人権宣言(UDHR)、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)が、公正な労働条件、差別の禁止、デュー・ディリジェンスの責任を求めています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と契約テンプレート
公正な労働慣行へのコミットメントを方針に明記し、法令を遵守した契約テンプレートを整備します。
- 公正な労働慣行を定めた人事ポリシーや従業員ハンドブック。
- 労働条件の明示義務を網羅した労働契約書・通知書のテンプレート。
- 法務専門家によるテンプレートの定期的なレビュー記録。
2. 明確な条件明示と交付
すべての労働者に対し、理解できる言語で書かれた労働契約書等を交付し、受領を確認します。
- 署名済みの労働契約書または労働条件通知書(実例)。
- 文書の交付と受領を確認する記録(署名、電子ログ)。
- 外国人労働者向けの翻訳版契約書や説明支援の記録。
3. 公正な条件と自由な合意
契約内容が法令を遵守するだけでなく、公正かつ無差別であり、労働者の真の合意に基づいていることを保証します。
- 違約金の禁止など、違法・不公正な条項を含まないことを確認するチェックリスト。
- 採用時に契約内容を説明し、質問時間を与えた記録。
4. 変更管理の透明性
労働条件に変更が生じた場合、適法な手続きに基づき、労働者が確認できる形で通知・合意形成を行います。
- 労働条件変更通知書と、それに対する労働者の同意書・受領確認書。
- 就業規則の変更手続きに関する記録(意見聴取、届出など)。
- 変更内容に関する説明会や協議会の議事録。
5. 派遣労働者の保護
派遣元企業が派遣労働者と適法・公正な契約を締結していることを確認する責任を果たします。
- 派遣元のコンプライアンス状況を確認する選定・審査プロセスの記録。
- 派遣元に対し、適法な契約締結を義務付ける基本契約書。
- 派遣労働者向けのオリエンテーション資料(権利や相談窓口の案内)。
6. 研修と意識向上
人事担当者や管理職が、関連法規と人権尊重の重要性を理解し、適切に実践できるよう支援します。
- 労働法・人権に関する研修の実施記録(内容、対象者、日時)。
- 契約書作成や労働条件説明に関する手順を記載した研修資料。
7. 記録管理とアクセス保証
契約関連書類を体系的かつ安全に保管し、労働者自身が自己の情報にアクセスできる権利を保障します。
- 契約書類の保管システム(デジタルまたは物理的)と管理手順書。
- 法定保存期間(5年)を遵守した記録保持方針。
- 労働者が自身の契約情報にアクセスできるプロセス(オンラインポータル等)。
8. 苦情処理メカニズム
すべての労働者が、契約に関する懸念を報復の恐れなく提起できる、実効性のある窓口を設けます。
- アクセスしやすく秘密が守られる苦情処理手順の文書。
- 派遣労働者も利用可能な相談窓口の周知記録。
- 受け付けた苦情の調査・解決プロセスの記録(匿名化)。
9. 監査とモニタリング
契約プロセスが意図した通りに機能しているか、定期的・客観的に検証し、継続的な改善に繋げます。
- 内部または第三者による監査報告書。
- 監査結果に基づく是正措置計画とその進捗記録。
- 監査の一環として行われた労働者へのヒアリング記録。
結論:人権を尊重する契約慣行の確立
労働契約に関するコミットメントの達成は、法的要件を満たした文書を交付するだけでは不十分です。国際人権基準に照らし、契約プロセス全体の透明性、公正性、そして労働者の真の理解と合意が不可欠です。本インフォグラフィックで示した多角的な証拠を通じて、企業は自社の労働慣行が国内法と国際基準の両方を尊重するものであることを具体的に証明し、持続可能で倫理的な事業運営の基盤を強化することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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