JASTI 6-8-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-8-1 原文
すべての労働時間は、工場所在地の法令に従い、原則として正確で信頼の おける管理システム、例えばタイムカードや磁気カード、指紋認証システ ムなどによって管理されなくてはならない。時間記録は真正で間違いな く、実際の労働時間を反映したものでなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、すべての労働時間を、事業場所在地の法令に従い、原則として正確で信頼のおける管理システム、例えばタイムカードや磁気カード、指紋認証システムなどによって管理します。時間記録は、真正で間違いのないものとし、実際の労働時間を反映したものとします。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法が法定労働時間(1日8時間・週40時間)、36協定に基づく時間外労働の上限を定めています。また、厚労省ガイドラインは客観的な方法による労働時間の把握を使用者に義務付けています。
国際人権基準:ILO条約やSA8000等は、過重労働を防止し、労働者の健康と福祉を保護する観点から、労働時間に厳しい制限を設けています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針とシステム導入
適正な労働時間管理に関する方針を定め、客観的で信頼性の高い勤怠管理システムを導入します。
- 労働時間管理に関する社内方針・規定。
- 勤怠管理システムの仕様書や設定文書。
- 指紋認証など、なりすましを防止するシステムの導入記録。
2. 就業規則と36協定
労働時間、休憩、休日、時間外労働に関するルールを就業規則に定め、適法な36協定を締結・届出します。
- 労働時間や時間外労働のルールを定めた就業規則。
- 所轄労働基準監督署に届け出た、有効な36協定の控え。
3. 客観的な時間記録
厚労省ガイドラインに基づき、始業・終業時刻を客観的な方法で日々記録します。
- タイムカード、ICカード、PCログ等の客観的な記録。
- 「手待ち時間」や準備・後片付け時間も労働時間として記録している証拠。
- 法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)の整備・保管記録。
4. 記録の真正性と正確性
記録の改ざんを防止し、打刻漏れ等の修正は正式な手続きに則って行い、記録が実労働時間を反映することを保証します。
- 上長による勤怠記録の定期的な確認・承認ログ。
- 勤怠記録の修正に関する申請・承認記録。
- 不正な打刻や記録の改ざんを禁止する社内方針と、違反時の懲戒規定。
5. 賃金台帳との連動
記録された労働時間(時間外、休日、深夜労働を含む)に基づき、割増賃金を正確に計算し、支払います。
- 労働時間数、時間外労働時間数等が明記された賃金台帳。
- 勤怠記録と賃金台帳、給与明細の内容が一致していることの証明。
6. 従業員への周知と研修
従業員が労働時間管理のルールとシステムの正しい使用方法を理解できるよう、周知と教育を徹底します。
- 時間管理に関する研修の実施記録(資料、出席者リスト)。
- 従業員からの勤怠記録の確認・承認プロセス。
- 自己申告制の場合、正しい申告方法に関する十分な説明記録。
7. 過重労働防止と健康配慮
法令遵守を超え、過度な時間外労働を抑制し、労働者の健康と福祉を守るための措置を講じます。
- 時間外労働の削減目標と実績データ。
- 勤務間インターバル制度の導入・運用記録。
- 年次有給休暇の取得促進に関する取り組みの記録。
8. 苦情処理メカニズム
労働時間や記録に関する懸念を、従業員が報復の恐れなく提起できる窓口を設けます。
- 相談窓口の周知記録。
- 受け付けた相談内容とその対応・解決記録(匿名化)。
- 従業員満足度調査における労働時間に関するフィードバック。
9. 監査と継続的改善
労働時間管理の実態を定期的に監査し、特定された課題に基づいて是正措置を講じ、継続的な改善を図ります。
- 内部または第三者による監査報告書。
- 労使協議会での労働時間に関する議事録。
- 監査結果に基づく是正措置計画と完了報告。
結論:信頼に基づく公正な時間管理文化の醸成
正確な労働時間管理は、賃金未払いや過重労働を防ぐための法的義務であると同時に、従業員との信頼関係の基盤です。客観的で信頼できるシステム、真正な記録、そして従業員の健康への配慮という三位一体の取り組みを通じて、企業は公正な労働慣行へのコミットメントを具体的に証明し、持続可能な成長を実現することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。