JASTI 7-1-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-1 原文
工場は、工場所在地の法令で定める最低賃金以上の賃金を支払わなくては ならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令で定める最低賃金以上の賃金を支払います。」
補足説明:法的根拠と罰則
日本の国内法:最低賃金法に基づき、国は地域別および特定の産業別に最低賃金を定めています。使用者は、雇用形態にかかわらず、全ての労働者に対しこの金額以上の賃金を支払う法的義務があります。
罰則:最低賃金額以上の賃金を支払わない場合、罰則(50万円以下の罰金)が科せられる可能性があります。また、労働基準監督署による是正勧告の対象となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 適用最低賃金の把握
事業所の所在地や業種に応じて適用される、最新の「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」を正確に把握します。
- 厚生労働省のウェブサイト等から入手した最新の最低賃金額一覧。
- 毎年改定される最低賃金額を確認し、社内に周知するプロセスの記録。
2. 規程・契約への反映
支払う賃金が最低賃金を下回らないことを、就業規則や個別の労働契約書で明確に保証します。
- 最低賃金遵守を明記した就業規則の賃金規定。
- 賃金条件が最低賃金額以上であることを示す労働契約書のサンプル。
3. 対象賃金の正確な特定
最低賃金の計算に算入する賃金(基本給等)と、除外する賃金(残業代、通勤手当等)を正しく区別します。
- 賃金規程における各手当の定義と計算対象の明記。
- 給与計算マニュアルやシステムの計算ロジック設定。
4. 正確な時間給換算
月給や日給、出来高払制の賃金を、実際の労働時間に基づき正確に時間給へ換算します。
- 客観的な勤怠記録(労働時間の根拠)。
- 月給制の場合の「1ヶ月の平均所定労働時間」の計算根拠。
- 出来高払制の場合の「総労働時間」の記録。
5. 最低賃金との比較検証
算出した時間給が、適用される最低賃金額を上回っていることを、全従業員について毎月確認します。
- 時間給換算額と最低賃金額の比較を示す計算シートやシステムレポート。
- 最低賃金を下回った場合に差額を支払った記録。
6. 賃金台帳・給与明細
賃金台帳に法定記載事項を正確に記録し、労働者には計算根拠が透明な給与明細を交付します。
- 労働時間数、賃金内訳が明記された賃金台帳。
- 勤怠記録と賃金台帳、給与明細の内容が一致していること。
7. 教育とコミュニケーション
人事・給与担当者や管理職に対し、最低賃金制度の重要性と正しい計算方法に関する研修を実施します。
- 最低賃金に関する研修の実施記録。
- 最低賃金改定時の社内周知文書。
8. 内部監査と是正措置
最低賃金の遵守状況を定期的に内部監査し、万が一不払いが見つかった場合は速やかに是正します。
- 内部監査報告書。
- 未払い分を遡及して支払った記録。
- 是正報告書および再発防止策に関する文書。
9. 外部への透明性
CSR報告書やサプライヤー行動規範を通じて、最低賃金遵守と公正な賃金へのコミットメントを公に表明します。
- CSR/サステナビリティ報告書の関連記述。
- サプライヤーに対し最低賃金遵守を求める行動規範。
結論:公正な賃金支払いは信頼の礎
最低賃金の遵守は、企業の法的責任の基本であり、労働者の生活を支える社会的な責務です。本インフォグラフィックで示したように、正確な情報把握、厳密な計算プロセスの確立、そして透明性のある記録管理を徹底することが、コンプライアンスを具体的に証明する鍵となります。公正な賃金の支払いは、従業員の士気を高め、社会からの信頼を獲得し、持続可能な事業運営を実現するための揺るぎない土台です。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。