JASTI 7-1-11 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-11 原文
工場は、退職した従業員に対し、賃金残額を、工場所在地の法令に定める 期間内に支払わなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、退職した労働者等に対し、賃金残額を、事業場所在地の法令に定める期間内に支払います。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法第23条は、退職した労働者から請求があった場合、7日以内に賃金等を支払うことを義務付けています。請求がない場合は、通常の給与支払日に支払うことが一般的です。
国際基準:ILO第95号条約(賃金保護条約)は、雇用契約終了後、妥当な期間内に賃金の最終支払を行うことを求めており、適時な支払いは労働者の基本的な権利です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と規程の整備
退職時の賃金支払日、計算方法、および労働基準法第23条に基づく請求への対応手順を、就業規則や賃金規程に明確に定めます。
- 最終賃金の支払いに関する就業規則の条文。
- 退職金規程(別途定める場合)。
- 従業員への周知を証明する記録。
2. 賃金残額の正確な計算
退職日までの実労働時間に基づき、基本給の日割り計算や未払いの時間外手当などを正確に算出し、記録します。
- 最終給与の計算過程がわかる賃金台帳。
- 退職日までの勤怠記録(タイムカード等)。
- 時間外労働の承認記録。
3.【請求時】7日以内支払い
労働者から賃金の支払請求があった場合、労働基準法第23条に基づき、請求日から7日以内に支払います。
- 労働者からの支払請求を受けた記録(日付が重要)。
- 請求日から7日以内に支払ったことを示す銀行振込記録や受領書。
4.【請求なし】通常期日払い
労働者から請求がない場合は、就業規則に定められた通常の給与支払日に、他の従業員と同様に支払います。
- 最終給与が通常の支払日に支払われたことを示す賃金台帳や振込記録。
5. 支払いの客観的証明
支払いが確実に行われたことを、追跡可能で客観的な証拠によって証明します。
- 金融機関が発行する銀行振込記録。
- 労働者本人の署名・押印がある現金受領書。
- 「退職所得の源泉徴収票」など、関連する公的書類の控え。
6. 従業員への情報提供
退職する従業員に対し、最終給与の内訳、支払日、そして7日以内の支払請求権について明確に説明します。
- 最終給与明細書の交付と、その内容説明の記録。
- 退職手続きに関する案内文書(請求権に関する記述を含む)。
- 退職面談での説明記録。
7. 未消化有給休暇の取り扱い
退職時に未消化の年次有給休暇が残っている場合、買い上げに関する社内ルールに基づき、または個別の合意により対応します。
- 年次有給休暇の買い上げに関する就業規則の規定。
- 買い上げを実施した場合の計算根拠と支払記録。
8. 内部統制と担当者研修
退職時の賃金支払いプロセスに関する内部統制を整備し、人事・給与担当者が関連法規を正しく理解するよう研修を実施します。
- 退職手続きに関する業務マニュアル。
- 担当者向けの研修実施記録。
- 定期的な内部監査の報告書。
9. 苦情処理メカニズム
最終賃金の支払いや計算に関する疑問・苦情について、退職後も元従業員がアクセスできる相談窓口を設けます。
- 退職者向け相談窓口の案内。
- (匿名化された)賃金に関する問い合わせ・苦情の受付・対応記録。
結論:円満な雇用関係の終了に向けて
退職した労働者への適時かつ正確な賃金支払いは、企業の法的責任と倫理観を示す最後の試金石です。労働者の請求権を尊重し、明確な社内プロセスと客観的な支払証拠を整備することは、不要な労使紛争を防ぎ、企業としての信頼性を最後まで維持するために不可欠です。公正な締めくくりが、元従業員との良好な関係、ひいては企業の評判を守ることに繋がります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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