JASTI 7-1-3 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-3 原文
試用期間における賃金は、工場所在地の法令に定める最低賃金を下回って はならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、試用期間における賃金についても、事業場所在地の法令に定める最低賃金を下回らないように支払います。」
補足説明:法的根拠と減額の特例
日本の国内法:最低賃金法は、原則として試用期間中の労働者にも適用されます。最低賃金を下回る賃金支払いは、法律で定められた例外規定に厳密に従い、都道府県労働局長の許可を得た場合にのみ許容されます。
減額の特例:許可を得た場合でも、減額は最低賃金の20%が上限であり、適用期間は最長6ヶ月です。この制度の誤用は重大なコンプライアンス違反となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 規程・契約による条件明示
試用期間の有無、期間、賃金等の労働条件を就業規則及び労働契約書に明確に定め、労働者の合意を得ます。
- 試用期間に関する規定を含む就業規則。
- 試用期間中の賃金額を明記した署名済みの労働契約書。
2. 最低賃金の継続的把握
毎年改定される地域別・特定(産業別)最低賃金の最新情報を常に把握し、給与計算に反映させます。
- 厚生労働省の発表等に基づく、現行最低賃金額の社内通知や記録。
- 最低賃金改定に伴う給与計算システム更新の記録。
3. 正確な賃金計算と支払い
試用期間中の従業員の賃金を時間給に換算し、最低賃金額を上回っていることを毎月確認・証明します。
- 時間給換算の計算記録やシステムレポート。
- 支払われた賃金を示す賃金台帳と給与明細書の控え。
- 残業代も法令通り支払われていることの証明。
4. 減額特例の適正手続き
最低賃金の減額特例を適用する場合は、必ず事前に都道府県労働局長の許可を得て、その範囲内で運用します。
- 対象従業員ごとの「最低賃金の減額の特例許可書」の控え。
- 許可された減額率と期間を遵守していることを示す賃金台帳。
5. 従業員への透明な情報提供
試用期間中の従業員に対し、自身の賃金体系や権利について明確に説明し、理解を促します。
- 入社時オリエンテーションでの説明資料。
- 賃金計算の内訳が詳細に記載された給与明細。
6. 内部監査と検証
試用期間中の賃金支払いが法令を遵守しているか、定期的な内部監査を通じて検証し、是正します。
- 内部賃金監査の計画書・報告書。
- 監査結果に基づく是正措置計画と完了報告。
- 自主点検チェックリストの運用記録。
7. 人事・給与担当者の研修
担当者が最低賃金法や減額特例制度を正しく理解し、運用できるよう、継続的な教育・研修を行います。
- 最低賃金に関する社内研修の実施記録(資料、参加者リスト)。
- 法令改正に関する情報共有の記録。
8. 苦情処理メカニズム
試用期間中の従業員が、賃金に関する懸念や問題を、報復の恐れなく安全に申し出られる窓口を設けます。
- 内部通報制度に関する規定と周知記録。
- 賃金に関する相談・苦情の受付・対応記録(匿名化)。
9. 外部への透明性
公正な賃金へのコミットメントをCSR報告書等で公表し、第三者による社会監査を受け入れます。
- CSR/サステナビリティ報告書における公正な労働慣行への言及。
- 第三者機関による社会監査報告書(該当する場合)。
結論:試用期間も公正な処遇の対象
試用期間は、労働者が法的な保護の対象外となる期間ではありません。最低賃金の遵守は、全ての労働者に対する企業の基本的な義務です。明確な規程、正確な計算、そして減額特例を適用する際の厳格な手続き遵守を徹底することで、企業は法的リスクを回避し、公正な雇用主としての信頼を築くことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。