JASTI 7-1-4 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-4 原文
時間外労働手当を含むすべての賃金は、工場所在地の法令の定める期限ま でに支払われなくてはならない。法令の定めがない場合は、最低 1 ヶ月に 1 回支払うこと。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令(賃金支払いの五原則等)に従い、労働の対償である賃金を支払います。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法第24条は「賃金支払いの五原則」(①通貨払い ②直接払い ③全額払い ④毎月1回以上払い ⑤一定期日払い)を定めており、これが賃金支払いの基本ルールとなります。
国際基準:ILO第95号条約(賃金の保護に関する条約)は、賃金の定期的かつ直接的な支払いや、控除の制限などを定めており、世界人権宣言は「公正かつ有利な報酬」の権利を保障しています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と規程の整備
賃金支払いの五原則を遵守することを就業規則や賃金規程に明確に定め、全従業員に周知します。
- 支払日、支払方法、控除項目等を定めた就業規則・賃金規程。
- 法令に基づく控除に関する労使協定書。
- 従業員への周知を証明する記録。
2. 通貨払いの原則
賃金は、現物支給ではなく、日本円で支払います。労働者の同意を得た場合は、銀行口座振込が可能です。
- 給与振込依頼書など、本人名義口座への振込に関する労働者の同意書。
- 銀行への振込データや記録。
3. 直接払いの原則
賃金は、代理人ではなく、労働者本人に直接支払います。
- 本人名義の口座への振込記録。
- 現金支給の場合、本人からの受領サインがある記録。
4. 全額払いの原則
法令で定められたもの(税金、社会保険料)や労使協定で合意されたもの以外は、賃金から控除しません。
- 税金・社会保険料の法定控除を示す計算記録。
- その他の控除(財形貯蓄等)に関する有効な労使協定書。
- 給与明細における控除項目の明確な記載。
5. 毎月1回以上払いの原則
賃金は、臨時の賃金(賞与等)を除き、毎月少なくとも1回は支払います。
- 毎月の給与支払いを証明する賃金台帳。
- 年間の給与支払スケジュールの記録。
6. 一定期日払いの原則
毎月、特定の支払日(例:毎月25日)を定めて、その日に賃金を支払います。
- 支払日を「毎月25日」のように特定した就業規則の条文。
- 支払日が休日の場合の取り扱いに関する規定。
- 毎月定められた日に支払いが実行されている銀行振込記録。
7. 非常時払・金品返還
労働者の出産・疾病・災害等の非常時には、支払期日前でも既往の労働に対する賃金を支払い、退職時には速やかに金品を返還します。
- 非常時払いや金品返還について定めた就業規則。
- (該当する場合)非常時払いの申請・支払記録。
- 退職者の貸与品返却・金品返還手続きのチェックリストと完了記録。
8. 監査と検証プロセス
賃金支払いのプロセスが法令と規程を遵守しているか、定期的な内部監査を通じて検証し、継続的な改善を図ります。
- 給与計算に関する内部監査報告書。
- 監査で発見された誤りや不備に対する是正措置の記録。
9. 苦情処理メカニズム
賃金の支払いや計算に関する疑問・苦情について、従業員が安心して相談できる窓口を設けます。
- 相談窓口の設置と周知に関する記録。
- 賃金に関する相談・苦情の受付・対応記録(匿名化)。
- 苦情内容を分析し、再発防止に繋げた事例。
結論:賃金支払いの五原則遵守は信頼の基盤
賃金を「通貨」で「直接」「全額」を「毎月1回以上」「一定期日に」支払うという五原則の遵守は、企業と従業員との信頼関係の根幹をなします。明確な規程に基づき、透明性のあるプロセスを通じてこれらの原則を確実に実行し、その証拠を体系的に管理することが、公正な労働慣行へのコミットメントを具体的に示す上で不可欠です。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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