JASTI 7-1-5 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-5 原文
時間外労働手当を含むすべての賃金は、原則として、現金、振込み等で支給されなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、時間外労働手当を含むすべての賃金を、原則として、現金、振込み等で支給します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法第24条は「賃金支払いの五原則」を定めており、これが賃金支払いの基本ルールです。また、第37条は時間外労働手当の割増率を規定しています。
国際基準:ILO第95号条約(賃金の保護)や世界人権宣言は、公正な報酬と賃金の保護を労働者の基本的人権として保障しています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 規程と契約による基礎確立
賃金の計算方法、支払方法、支払日、時間外手当に関するルールを、就業規則や労働契約書で明確に定めます。
- 賃金支払五原則を反映した就業規則・賃金規程。
- 賃金条件が明記された、署名済みの労働契約書。
2. 正確な労働時間の記録
賃金計算の基礎となる労働時間を、タイムカードや勤怠管理システムなどの客観的な方法で正確に記録します。
- 始業・終業時刻が記録されたタイムカードや勤怠システムのログ。
- 時間外労働の事前申請・承認記録。
- 記録修正に関する正式な手続きとログ。
3. 賃金台帳の適正な作成
労働基準法で定められた法定三帳簿の一つである賃金台帳に、労働時間や賃金の内訳などを正確に記録します。
- 法定記載事項(労働日数、時間外労働時間数等)を網羅した賃金台帳。
- 勤怠記録と賃金台帳のデータが一致していること。
4. 給与明細による透明性確保
労働者に対し、支給額、控除額、勤怠の内訳などを明記した給与明細を交付し、計算の透明性を確保します。
- 時間外労働時間や手当額などが詳細に記載された給与明細書のサンプル。
- 給与明細と賃金台帳の内容が一致していること。
5. 現金払いの証明
賃金を現金で支払う場合は、労働者本人が受領したことを証明する客観的な記録を残します。
- 労働者本人の署名または押印のある給与受領書。
- 現金支払プロセスに関する内部統制の記録。
6. 銀行振込の証明
労働者の同意に基づき、本人名義の口座へ賃金を振り込んだことを、金融機関の記録によって証明します。
- 労働者本人の署名がある口座振込同意書。
- 金融機関が発行する振込明細書や取引記録。
7. 全額払いと適法な控除
賃金から控除できるのは、法令で定められた税金・社会保険料と、労使協定で合意された項目のみです。
- 賃金からの控除に関する有効な労使協定書。
- 給与明細における法定控除と協定控除の明確な区別。
8. 記録の保存
賃金台帳や勤怠記録など、賃金支払いに関する全ての重要書類を法定期間(原則5年)適切に保存します。
- 文書の保存期間と方法を定めた社内規程。
- 安全な保管場所(物理的・電子的)の確保。
- 監査時に必要な記録を速やかに検索・提出できる体制。
9. 監査と改善プロセス
賃金支払いプロセスを定期的に監査し、問題点を是正することで、継続的なコンプライアンスを確保します。
- 内部監査報告書および是正措置の記録。
- 担当者への継続的な研修記録。
- 賃金に関する苦情とその対応記録。
結論:信頼性の高い賃金支払いの実現
賃金の適正な支払いは、企業の法的・社会的責任の根幹です。本インフォグラフィックで示したように、明確な規程に基づき、客観的証拠(勤怠記録、賃金台帳、支払記録等)を体系的に管理し、それらの整合性を確保することが不可欠です。これらの堅牢な証拠をもって、企業は公正な労働慣行へのコミットメントを具体的に証明し、従業員と社会からの信頼を確立することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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