JASTI 7-1-6 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-6 原文
工場は、意見箱やその他の通報手段によって、賃金に関する異議を唱える 機会を提供しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、意見箱やその他の通報手段によって、賃金に関する異議を唱える機会を提供します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:公益通報者保護法は、労働者が法令違反(賃金未払い等)を通報した場合に、その労働者を不利益な取り扱いから保護します。企業には内部通報制度の整備が求められます。
国際人権基準:国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、企業に対し、人権侵害に対する「救済へのアクセス」として、実効性のある苦情処理メカニズムの設置を求めています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 制度の設計と方針の明確化
賃金に関する異議申し立てのための窓口(意見箱、ホットライン等)を設置し、その目的、利用方法、処理プロセスを規程で明確に定めます。
- 内部通報制度規程や苦情処理マニュアル。
- 秘密保持や報復禁止を明記した方針文書。
- 制度設計に関する労使協議の議事録。
2. 周知とアクセシビリティ
すべての従業員が制度の存在を知り、いつでも容易に利用できるよう、継続的な周知活動と利用しやすい環境整備を行います。
- 入社時や定期的な研修での説明記録。
- イントラネットやポスターによる周知の証拠。
- 外国人労働者向けの多言語対応の案内。
3. 秘密保持と報復の禁止
申立者のプライバシーを厳格に保護し、申し立てたことを理由とするいかなる不利益な取り扱いも行わないことを保証します。
- 報復禁止を明記した方針と、違反時の懲戒規定。
- 情報へのアクセス制限など、秘密保持のための具体的な措置。
- 担当者の守秘義務に関する誓約書。
4. 公正・中立な調査プロセス
申し立てられた内容について、先入観なく客観的な事実調査を行い、当事者双方に意見表明の機会を与えます。
- 調査の標準的な手順を定めたマニュアル。
- 調査担当者の独立性・中立性を確保するための規定。
- (匿名化された)調査報告書のサンプル。
5. 迅速な対応と是正措置
申し立てに対して迅速に対応し、調査で問題が確認された場合は、賃金の遡及支払などの適切な是正措置を講じます。
- 申立から解決までの標準処理期間と実績データ。
- 賃金計算の誤りを訂正し、差額を支払った記録。
- 再発防止策の策定・実施記録。
6. 利用状況のモニタリング
異議申し立て制度の利用状況を定期的に分析し、制度の実効性を評価・検証します。
- (匿名化された)申立件数、内容の傾向、解決率などの統計データ。
- 経営層への定期的な運用状況報告書。
7. 担当者の専門性確保
相談・調査担当者が、関連法規、調査手法、倫理規定に関する十分な知識とスキルを持つよう、研修を実施します。
- 担当者向けの専門研修の実施記録。
- 調査の公正性や守秘義務に関するトレーニング資料。
8. 従業員からのフィードバック
従業員満足度調査などを通じて、制度の認知度や信頼性、利用しやすさに関する意見を収集し、改善に活かします。
- 従業員アンケートの質問項目と集計・分析結果。
- フィードバックを受けて制度を改善した事例。
9. 継続的改善のサイクル
モニタリング結果や従業員からのフィードバックに基づき、制度の問題点を特定し、継続的に見直しと改善を行います。
- 制度の定期的なレビュー会議の議事録。
- 分析結果に基づく改善計画書と実施記録。
- 改訂された規程やマニュアル。
結論:実効性のある制度が信頼を築く
賃金に関する異議申し立ての機会を提供することは、単に窓口を設けることではありません。その制度が、すべての従業員にとってアクセスしやすく、公正で、安全であり、実質的な問題解決に繋がっていることを具体的な証拠で示すことが重要です。UNGPsが求める「救済へのアクセス」を保証する実効的なメカニズムを構築・運用することは、従業員との信頼関係を深め、健全な組織文化を育むための不可欠な要素です。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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