JASTI 7-1-8 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-8 原文
工場は、以下の賃金等に関する項目について、従業員が理解できる言語で 周知しなくてはならない。 賃金の額、賃金の計算方法、報奨金のシステム、賞与の制度
達成すべきコミットメント
「私たちは、賃金の額、賃金の計算方法、報奨金のシステム、賞与の制度などの賃金等に関する項目について、労働者等が理解できる言語で周知します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法は労働条件の明示を、厚生労働省の指針は特に外国人労働者に対し「理解できる言語や方法」での周知を求めています。
国際人権基準:ILOの賃金保護条約やUNGPsは、労働者が自身の賃金条件を十分に知らされる権利を保障しており、情報の透明性は公正な労働慣行の基本です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 多言語による規程・契約書
賃金に関する全ての規程(就業規則、賃金規程等)や労働条件通知書を、労働者が理解できる言語で整備・交付します。
- 翻訳された就業規則・賃金規程の文書。
- 多言語化された労働条件通知書のテンプレート。
- 従業員への配布・交付記録(受領サイン等)。
2. 分かりやすい給与明細
給与明細の各項目が何を意味するのか、多言語での説明資料や補足を付けて、計算の透明性を確保します。
- 多言語対応の給与計算システムの導入・活用記録。
- 給与明細の読み方を解説した多言語ガイド。
- 控除や手当に関する詳細な説明資料。
3. 入社時・制度変更時の説明会
賃金体系、評価制度、賞与・報奨金の仕組みについて、通訳を交えるなどして対話形式で説明し、理解を深めます。
- 入社時オリエンテーションの研修資料(賃金セッション)。
- 説明会の実施記録(アジェンダ、出席者リスト)。
- 質疑応答の議事録やFAQリスト。
4. 視覚的補助と平易な表現
専門用語を避け、「やさしい日本語」や図、イラスト、動画などを用いて、複雑な制度を直感的に理解できるよう工夫します。
- 図解入りの賃金制度説明資料。
- 「やさしい日本語」で作成されたハンドブック。
- 説明動画の作成・提供記録。
5. 多言語対応の相談窓口
賃金に関する個別の質問や疑問に、労働者が理解できる言語で対応できる相談窓口(人事、通訳担当等)を設けます。
- 相談窓口の設置と多言語対応に関する案内。
- 人事労務システムの多言語対応機能の導入記録。
- 外部の公的相談窓口(労働条件相談ほっとライン等)の周知。
6. 文化的背景への配慮
賃金や評価に対する価値観の文化的な違いを理解し、誤解を招かないよう、丁寧なコミュニケーションを心がけます。
- 異文化理解に関する管理職・担当者向け研修の記録。
- 外国人従業員との定期的な面談記録。
7. 人権デュー・ディリジェンス
賃金情報の伝達不足が人権リスクになりうることを認識し、定期的にリスク評価と改善措置を行います。
- 人権デュー・ディリジェンス報告書(賃金コミュニケーションに関する評価を含む)。
- サプライヤーに対し、同様の周知義務を求める方針。
8. 苦情処理とフィードバック
賃金情報に関する従業員の疑問や不満を受け付け、解決に繋げるとともに、その声を制度改善に活かします。
- 多言語対応の苦情処理メカニズムの運用記録。
- 従業員満足度調査における賃金透明性に関する評価。
9. 公開報告による透明性
サステナビリティレポート等で、多様な従業員への情報伝達に関する方針や具体的な取り組みを積極的に開示します。
- CSRレポート等における多言語対応や研修実施に関する記述。
- サプライヤーに対する同様の期待を表明した文書。
結論:理解の橋渡しによる信頼関係の構築
賃金情報の周知は、単なる翻訳作業ではなく、労働者の権利を尊重し、真の理解を促すための対話プロセスです。多言語による文書提供、対話形式の説明、そして継続的な改善努力を組み合わせることで、企業は言語や文化の壁を越えた強固な信頼関係を築き、全ての従業員が公正に扱われていると感じられる職場を実現することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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