JASTI 7-1-9 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-9 原文
工場は、二重の従業員名簿、二重帳簿、不正な時間外労働記録など、一切 の不正な記録を用いてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、二重の労働者等名簿、二重帳簿、不正な時間外労働記録など、一切の不正な記録を用いません。」
補足説明:法的根拠と誠実性の原則
日本の国内法:労働基準法は、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等の法定帳簿の正確な作成と保存を義務付けており、違反には罰則が科されます。
国際基準:記録の誠実性は、公正な労働慣行と透明性の基本です。不正な記録は、強制労働や搾取といった重大な人権侵害の隠れ蓑となる可能性があります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 単一・正確な労働者名簿
事業場ごとに、法定要件を満たした単一の労働者名簿を作成・維持し、情報の正確性を確保します。
- 労働基準法第107条に準拠した労働者名簿の実物。
- 従業員の入社・退社・情報変更に伴う、適時な更新プロセスと記録。
2. データ照合による名簿の検証
労働者名簿の情報を、社会保険、給与、雇用契約の各データと定期的に照合し、不一致がないことを確認します。
- 社会保険被保険者記録との照合報告書。
- 給与計算システムの従業員リストとの突合記録。
- 発見された不一致と、その是正措置に関する記録。
3. 統合された会計システム
給与計算システムと会計システムを連携させ、全ての労働コストが会計帳簿に正確・完全に反映される体制を構築します。
- システム間のデータ連携を示す構成図や仕様書。
- 給与データから総勘定元帳への自動仕訳記録。
- 両システムの労働コストに関するレポートの一貫性の証明。
4. 透明性のある財務取引
全ての賃金支払いを、銀行振込など追跡可能な方法で行い、帳簿外の支払いを排除します。
- 給与支払名簿の金額と一致する銀行振込記録。
- 社会保険料や税金の納付証明書。
- 全ての労働関連支払いが会計システムで追跡できること。
5. 客観的な勤怠管理
ICカードや生体認証など、改ざんが困難な客観的方法で労働時間を記録し、不正な時間外労働記録を防止します。
- 客観的な勤怠管理システムの導入・運用記録。
- 時間外労働の事前申請・承認プロセスの記録。
- 勤怠記録と賃金台帳の労働時間の一致。
6. システムによる記録の統制
人事・給与システムにアクセス管理、監査証跡、職務分掌の機能を設け、不正な記録の作成・変更を防止します。
- 役割ベースのアクセス権限設定の記録。
- データ変更履歴を追跡する監査証跡(ログ)のサンプル。
- 勤怠入力者と給与承認者を分離する職務分掌規程。
7. 内部・外部による監査
労働関連記録の正確性と完全性について、定期的な内部監査および第三者による外部監査を実施します。
- 給与計算や労働記録に関する内部監査報告書。
- 公認会計士による財務監査報告書の関連部分。
- 監査で指摘された事項に対する是正措置の記録。
8. 内部通報制度の実効性
従業員が不正な記録に関する懸念を、報復の恐れなく安全に通報できる実効性のある窓口を整備・運用します。
- 公益通報者保護法に準拠した内部通報制度規程。
- 制度の周知記録と、担当者向けの研修記録。
- (匿名化された)通報受付・調査・対応の記録。
9. 誠実性の文化醸成
経営層からのメッセージや研修を通じて、記録の正確性と誠実性を重視する企業文化を全社的に育みます。
- 不正記録を禁止する企業倫理綱領や行動規範。
- コンプライアンスに関する全社的な研修記録。
- 誠実性を評価項目に含む人事評価制度。
結論:誠実な記録管理は信頼の証
不正な記録の不存在は、単に「不正が見つからない」ことではなく、「不正を許さない、発生させない仕組みがある」ことによって証明されます。正確な基礎文書、堅牢なシステム、厳格な照合と監査、そしてオープンな通報制度を組み合わせることで、企業は記録管理における誠実性へのコミットメントを具体的に示し、全てのステークホルダーからの信頼を勝ち得ることができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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