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JASTI 7-2 遵守の証拠

JASTI 7-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 7-2 原文

従業員が自主的に支払う控除、ローンの返済や、互助会費などは、工場所在地の法令に従い、労使協定及び従業員の同意の上で賃金より控除し、賃金台帳に記載されなくてはならない。

達成すべきコミットメント

「私たちは、労働者等が自主的に支払う控除、ローンの返済や、互助会費などは、事業場所在地の法令に従い、労使協定及び労働者等の同意の上で賃金より控除し、賃金台帳に記載します。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」により、賃金からの控除は厳しく制限されています。法定控除以外は、原則として書面による「労使協定」の締結が不可欠です。

国際基準:ILO第95号条約(賃金保護条約)も、賃金からの控除は法令や労働協約に基づく必要があると定めており、労働者の「自由な意思」に基づく同意が国際人権の基本原則です。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 労使協定の締結

法定控除以外の項目(社宅費、ローン返済、互助会費等)を賃金から控除するための法的根拠として、労使協定を締結します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 控除対象項目を具体的に明記した、署名済みの労使協定書。
  • 労働者の過半数代表者が適正に選出されたことを示す記録。

2. 労働者の個別的・自由な同意

労使協定に加え、ローン契約や互助会加入など、個別の控除について労働者本人の自由な意思に基づく同意を書面で得ます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 控除条項を含む署名済みローン契約書。
  • 賃金控除への同意を含む互助会加入申込書。
  • 同意が強制でないことを示す説明記録。

3. 就業規則への規定

労使協定に基づく控除が可能である旨を就業規則に明記し、社内ルールの透明性を確保します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 賃金控除に関する就業規則の条文。
  • 規程が全従業員に周知されていることの証明。

4. 賃金台帳への正確な記録

法定控除と協定控除の各項目を明確に区別し、その金額を賃金台帳に正確に記録します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 法定記載事項を網羅した賃金台帳のサンプル。
  • 「ローン返済」「互助会費」などの控除項目と金額が個別に記載されていること。

5. 給与明細での透明性

従業員に交付する給与明細書に、全ての控除項目とその金額を明記し、賃金計算の透明性を確保します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 控除項目が詳細に記載された給与明細書のサンプル。
  • 給与明細と賃金台帳の記載内容の一致。

6. 控除内容の説明と理解

控除の対象となる制度(ローン、互助会等)に加入する際、控除の目的、金額、頻度などを従業員に十分に説明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 制度説明会の資料や議事録。
  • 従業員が内容を理解した上で同意したことを示すチェックリスト等。

7. 担当者の知識向上

人事・給与担当者が、賃金控除に関する法規制や労使協定の重要性を正しく理解するための研修を実施します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 担当者向け研修の実施記録。
  • 労務コンプライアンスに関するマニュアル。

8. 苦情処理メカニズム

賃金控除に関する疑問や不満について、従業員が報復の恐れなく相談できる窓口を設けます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 内部通報制度や相談窓口に関する規定と周知記録。
  • (匿名化された)賃金控除に関する相談・対応記録。

9. 内部監査と是正

賃金控除の運用が適法かつ適切に行われているか、定期的に内部監査を実施し、問題があれば是正します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 賃金控除に関する内部監査報告書。
  • 労使協定の有効期限の管理記録。
  • 監査結果に基づく是正措置の完了報告。

結論:合意と透明性が公正な賃金控除の鍵

賃金からの控除は、労働者の生活に直接影響を与えるため、その実施には厳格な法的要件と倫理的配慮が求められます。全額払いの原則を基本とし、例外的な控除を行う場合は、必ず書面による労使協定を締結し、労働者本人の自由な意思に基づく明確な同意を得ることが不可欠です。これらの手続きを確実に履行し、その証拠を体系的に管理・提示することが、企業のコンプライアンスと社会的信頼を確保する上で極めて重要です。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

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