JASTI 7-7-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-7-1 原文
工場は、以下の項目を記載した賃金の支払い明細を従業員に明示し、その控えを保管しなくてはならない。 基本給、時間外労働手当、賞与、及び全ての控除と最終支払い額、賃金計算の明細
達成すべきコミットメント
「私たちは、基本給、時間外労働手当、賞与、及び全ての控除と最終支払い額、賃金計算の明細を記載した賃金の支払い明細を労働者等に明示し、その控えを保管します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:賃金明細の交付は所得税法第231条で義務付けられています。また、賃金台帳の作成・保管は労働基準法第108条・109条で定められています。賃金支払いの基本原則は労働基準法第24条に基づきます。
国際人権基準:ILO第95号条約および第85号勧告は、労働者への賃金細目の通知と適切な記録管理を求めています。UNGPsは、透明性のある公正な賃金慣行を企業の人権尊重責任の一部として位置付けています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 標準賃金明細テンプレート
法的要件とコミットメントの全項目を網羅した、標準化された賃金明細の書式が存在することを示します。
- 企業の標準的な賃金明細の空白テンプレート。
- 支給、控除、勤怠、計算基礎等の全項目が記載されていること。
- 言語の明確性と判読しやすさ。
2. 発行済み賃金明細の実例
テンプレートが実際に運用され、全労働者に一貫して詳細な賃金明細が交付されていることを証明します。
- 異なる雇用形態・支払期間をカバーする、実際の匿名化された賃金明細のサンプル。
- テンプレートに沿った情報が正確に記載されていること。
3. 賃金計算の透明性
労働者が自身の給与計算の根拠を理解し、検証できることを保証します。
- 時間外労働手当の明細(時間数、割増率、単価など)。
- 日割り計算や賞与計算の根拠が就業規則等で明確にされていること。
- 勤怠記録(労働日数・時間数)との整合性。
4. 控除の正当性
賃金から控除される全ての項目が、法的または労使協定上の根拠に基づいていることを証明します。
- 法定控除(税金、社会保険料)の正確な計算記録。
- 法定外の控除(組合費、財形貯蓄等)を行うための有効な労使協定書の現物。
- 賃金明細における各控除項目の個別明記。
5. 賃金台帳の整備
労働基準法に基づき、各労働者の賃金に関するマスター記録を正確に作成・維持していることを示します。
- 法定記載事項(労働時間数、賃金額等)を網羅した賃金台帳のサンプル(匿名化済)。
- 賃金明細と賃金台帳のデータの一致。
- 支払の都度、遅滞なく記入されている運用記録。
6. 記録の保管体制
賃金台帳および賃金明細の控えを、法的要件とコミットメントに従い、安全かつ適切に保管していることを示します。
- 賃金台帳の5年間(当面3年)の保管を定めた記録管理規定。
- 賃金明細の控えを保管するためのシステムやプロセス。
- 電子記録のデータセキュリティとバックアップ、物理的記録のアクセス管理に関する記録。
7. 交付プロセスの確立
賃金明細が「支払の際」に、全労働者へ確実かつタイムリーに交付されるプロセスが確立されていることを示します。
- 給与計算から明細交付までの手順書やフローチャート。
- 紙媒体での配布手順、または電子交付システムの運用記録。
- タイムリーな交付を保証する内部のスケジュール管理。
8. 電子交付の同意記録
電子交付を行う際に、所得税法に基づき、労働者から事前に適切な同意を得ていることを証明します。
- 労働者が署名した同意書、または電子的な同意の記録。
- 同意取得時に提示した、交付方法や形式に関する説明資料。
- 同意しない労働者への書面交付の対応記録。
9. 裏付けとなる記録類
賃金明細や賃金台帳に記載された数値の正当性を補強する、基礎となる記録を整備していることを示します。
- 客観的な労働時間記録(タイムカード、PCログ等)。
- 時間外労働の申請書・承認記録。
- 就業規則や賃金規程(賃金計算方法を規定)。
10. 内部統制と監査
給与計算の正確性を確保し、コンプライアンス違反を予防するための、積極的なチェック体制があることを示します。
- 文書化された給与計算・検証プロセス(チェックリスト等)。
- 給与コンプライアンスに関する内部監査計画、報告書、および是正措置の記録。
- 計算ミスを防止するための多段階の検証プロセス。
11. 研修とコミュニケーション
給与担当者が法的要件を理解し、従業員が自身の権利と問い合わせ先を認識していることを保証します。
- 給与担当者向けの定期的な研修記録。
- 従業員ハンドブックやイントラネットでの賃金ルールに関する情報提供。
- 新入社員向けオリエンテーションでの説明資料。
12. 苦情処理メカニズム
賃金に関する従業員からの問い合わせや苦情に、公正かつ迅速に対応するプロセスが確立されていることを示します。
- 給与に関する問い合わせ窓口や苦情申立手順の文書。
- 受け付けた苦情の処理プロセスと対応結果の記録(個人情報保護に配慮)。
- 救済へのアクセスを保証する姿勢。
透明性と信頼性の構築
正確で詳細な賃金明細の交付と適切な記録保管は、単なる法令遵守以上の意味を持ちます。それは、労働者との信頼関係の基盤であり、公正な労働慣行を実践していることの最も直接的な証明です。
本報告書で提示された証拠を体系的に整備し、維持することで、企業は透明性を確保し、国際的な人権尊重の要請に応えることができます。これにより、企業は持続可能な成長のための強固な基盤を築くことができるでしょう。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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