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JASTI 7-7-2 遵守の証拠

JASTI 7-7-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 7-7-2 原文

工場は、譲受人(親族であっても)に賃金を渡してはならない。

達成すべきコミットメント

「私たちは、譲受人(親族であっても)に賃金を渡しません。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:労働基準法第9条(労働者の定義)および第116条(同居親族への限定的適用除外)が核心となります。「使用従属性」の有無が判断基準です。

国際人権基準:ILO強制労働条約は「賃金の不払い」を強制労働の指標と見なす可能性があり、特に親族などの脆弱な立場にある者との関係では、真に任意で搾取のない関係であることを厳格に証明する必要があります。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 事業主・パートナーシップ証明

譲受人が「労働者」ではなく、事業の所有者または共同経営者であることを契約書や公的書類で証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 株主間契約書、組合契約書。
  • 取締役や所有者であることを示す会社登記簿謄本。
  • 損益分配契約書。

2. 独立請負・業務委託契約

譲受人が独立した事業者として、特定の業務を請け負っていることを契約内容で明確にします。

遵守を示す証拠 (例):
  • 業務委託契約書(業務範囲、成果物、報酬、納期を明記)。
  • 業務遂行の自律性や代替権を認める条項。
  • 譲受人自身が事業リスクを負担することを示す条項。

3. 事業譲渡・贈与契約

譲受人が、事業や資産を法的に譲り受けた、または贈与された当事者であることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 事業譲渡契約書。
  • 贈与契約書(負担付贈与の場合は、その負担が雇用関係に類似しないことの証明)。
  • 事業譲渡に伴う従業員の雇用契約の適正な処理記録。

4. 業務の自律性と裁量権

譲受人が、業務の遂行方法や時間配分について、労働者のような指揮命令を受けず、自己の裁量で決定している実態を示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 業務指示や依頼に対する諾否の自由があった記録。
  • 勤務時間や場所が管理・拘束されていない記録。
  • 業務報告が、進捗管理ではなく成果物の確認であることの記録。

5. 労働者性の具体的否定

労働者性を判断する他の要素(機械・器具の負担、代替性)において、譲受人が事業者としての性格を持つことを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 高価な機械や器具を譲受人が自己負担している記録。
  • 譲受人が自己の判断と費用で補助者を使ったり、他人に業務を代替させたりした記録。
  • 特定の企業への専属性が低いことの証明。

6. 財務記録(非「賃金」証明)

譲受人への支払いがないこと、または支払いがある場合でもそれが「賃金」ではないことを財務記録で裏付けます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 譲受人が賃金台帳に記載されていないこと。
  • 独立請負人の場合は、請求書に基づく「報酬」の支払記録。
  • 事業主・パートナーの場合は、利益分配の記録。

7. 親族への適用除外証明

親族である譲受人に労基法第116条2項の適用除外を適用する場合、その厳格な要件を満たしていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 同居の事実を示す住民票。
  • 生計を同一にしている証明(共有の家計簿、扶養の税務書類等)。
  • 事業に親族以外の従業員がいないことの証明。

8. 親族の任意性・同意

親族である譲受人が、圧力や脆弱性の利用なく、自由な意思で無償労働に同意していることを客観的に示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 取り決めの内容を理解し、強要がないことを確認した本人署名の申告書。
  • 独立した法的助言を求める権利を通知した記録。
  • 同意に至る経緯を記録した議事録やコミュニケーション記録。

9. 内部方針とガイドライン

譲受人への賃金不払いが例外的な措置であり、その適用条件を厳格に定めた社内規定があることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 譲受人の分類と処遇に関する社内ガイドライン。
  • 労働者性の判断基準を定めたチェックリスト。
  • コミットメントの誤適用を防ぐためのリスク管理方針。

10. 関係性の実態記録

契約書だけでなく、日々の業務実態が非雇用関係であることを示す客観的な記録を維持します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 譲受人とのコミュニケーション記録(メール、議事録等)。
  • 譲受人が企業の指揮命令下で行動していないことを示す記録。
  • 業務の成果物や事業活動に関する報告書。

11. 担当者への研修

関連部署の担当者が、労働者性の判断基準や誤分類のリスク、国際人権基準を正しく理解していることを保証します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 人事、法務、関連管理職向けの研修資料。
  • 研修の実施記録、出席者リスト。
  • 理解度を確認するためのテストや評価の結果。

12. 定期的な監査とレビュー

譲受人との関係性が実態として変化していないか、継続的に確認し、コンプライアンスを維持する仕組みがあることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 譲受人との関係性に関する定期的な内部監査計画と報告書。
  • 監査で発見された問題点に対する是正措置計画。
  • 複雑なケースに関する、外部の法律専門家によるレビュー記録。

結論:厳格な証明とリスク管理

「譲受人に賃金を支払わない」というコミットメントは、極めて限定的な状況でのみ法的に成り立ち、重大な法的・人権侵害リスクを伴います。遵守を証明するには、「譲受人」が労働基準法上の「労働者」に該当しないことを、契約書だけでなく、業務の実態を示す客観的な証拠をもって、個別に、かつ厳格に立証する必要があります。

特に親族が関わる場合は、脆弱性の濫用や強制労働と見なされないよう、真に任意で対等な関係であることを示す、より高度な注意義務が求められます。継続的なデューディリジェンスと、本報告書で提示された証拠の体系的な管理が、リスクを回避し、企業の信頼性を守る鍵となります。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。