JASTI 7-7-3 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-7-3 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、全ての従業員を賃金台帳・労働者名簿・出勤簿・年次有給休暇管理簿に記載しなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、日本の労働関連法規および国際人権基準に基づき、労働関連帳簿を正確に作成、維持、保管します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法により、主に「賃金台帳」「労働者名簿」「出勤簿」「年次有給休暇管理簿」の4つの帳簿の作成・保存が義務付けられています。これらは「法定三帳簿」を中心に、一体として管理される必要があります。
国際人権基準:ILO条約や国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、公正な労働条件、透明性、強制労働の防止などを求めており、適切な労働帳簿の管理はこれらの原則を遵守していることを示す重要な証拠となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 賃金台帳の適正な作成
労働基準法で定められた全必須項目を網羅した賃金台帳を、各労働者・各支払期ごとに正確に作成していることを示します。
- 必須記載事項(労働時間数、基本給・手当、控除額等)を満たした賃金台帳のサンプル(匿名化済)。
- 給与計算システムから出力されたレポート。
2. 労働者名簿の適時更新
従業員の基本情報や雇用情報を記録し、変更があった場合に「遅滞なく」更新するプロセスが確立されていることを示します。
- 必須記載事項(氏名、住所、履歴、雇入・退職日等)を網羅した労働者名簿のサンプル。
- 住所変更や異動があった際の更新プロセスを示すワークフロー。
3. 客観的な出勤簿の記録
厚労省ガイドラインに基づき、始業・終業時刻等を客観的な方法で記録・管理していることを証明します。
- タイムカード、ICカード、PCのログイン・ログアウト記録等の客観的記録。
- 自己申告制の場合、実態調査や検証を行った記録。
- 監督者による勤怠記録のレビュー・承認ログ。
4. 年休管理簿による取得義務履行
年次有給休暇の付与・取得状況を正確に管理し、特に「年5日の取得義務」の履行を証明できる体制を示します。
- 必須3項目(基準日、日数、時季)を記載した年次有給休暇管理簿のサンプル。
- 年5日取得義務の対象者と取得状況のモニタリング記録。
5. 帳簿間の整合性
法定三帳簿(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿)などのデータが相互に一致し、信頼性の高い記録となっていることを示します。
- 出勤簿の労働時間と賃金台帳の時間外労働時間数が一致していることの検証記録。
- 労働者名簿の従業員情報と賃金台帳の対象者が一致していること。
6. 記録の保管とアクセス管理
法定保存期間(原則5年、当面3年)を遵守し、機密情報を保護するための適切な保管・管理体制があることを示します。
- 記録管理規定(保存期間、保管場所、破棄手順を明記)。
- 物理的保管場所の施錠管理記録。
- 電子データの場合、アクセス制御ログやセキュリティ対策の記録。
7. 電子システムの適法性
電子システムで帳簿を管理する場合、そのシステムが法令要件(データの完全性、見読性、検索性等)を満たしていることを示します。
- システムの仕様書やマニュアル。
- いつでも画面表示・印刷できる機能の証明。
- 改ざん防止のための監査証跡(ログ)機能の記録。
8. 内部運用ガイドライン
帳簿の作成・更新・保管に関する一貫した運用を保証するための、文書化された社内ルールや手順があることを示します。
- 労務管理に関する規程やマニュアル。
- データ入力、検証、承認プロセスを定めたフローチャート。
- 打刻忘れ等の例外処理に関するルール。
9. 担当者への研修
人事・給与担当者が法的要件や社内ルールを正しく理解し、運用できるよう、適切な研修を実施していることを示します。
- 労働基準法や帳簿管理に関する研修資料。
- 研修の実施記録、出席者リスト。
- 法改正に関する社内通達や説明会の記録。
10. 内部監査とレビュー
帳簿の正確性や法令遵守状況を、定期的かつ体系的に自己点検・評価する仕組みがあることを示します。
- 労務コンプライアンスに関する内部監査計画と報告書。
- 監査で使用するチェックリスト。
- 発見された問題点に対する是正措置計画と完了報告。
11. 外部検証への対応
労働基準監督署の調査や第三者による社会監査など、外部からの検証に対応できる体制が整っていることを示します。
- 社会保険労務士による労務監査報告書。
- 過去の労働基準監督署の調査における指摘事項ゼロ、または是正報告書。
- SMETA等の社会監査報告書における良好な結果。
12. 透明性のある情報開示
帳簿管理体制やその運用状況について、社内外のステークホルダーに対し、積極的に情報開示していることを示します。
- 人権方針やCSR/サステナビリティ報告書における、帳簿管理に関する具体的な記述。
- 第三者保証を受けた報告書。
結論:説明責任の基盤としての記録管理
労働関連帳簿の適切な管理は、単なる事務手続きではなく、企業のコンプライアンスと人権尊重姿勢の根幹をなすものです。本報告書で提示された証拠は、企業が法的義務を履行し、公正で透明性のある労働環境を構築していることを具体的に示すためのものです。
これらの帳簿を正確に整備し、継続的に改善するプロセスを確立することは、従業員、規制当局、投資家といった全てのステークホルダーからの信頼を醸成し、持続可能な企業経営を実現するための不可欠な要素です。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。