JASTI 7-8-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-8-2 原文
工場は、工場所在地の法令に定めがある場合、1 日の時間外労働時間の制限を超えてはならない。
注:日本においては、三六協定で 1 日の労働時間の上限が定めている場合がある。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令や労使協定による定めがある場合、その定められた1日あたりの時間外労働時間の制限を超えないようにします。」
補足説明:法的枠組みとコミットメントの遵守
日本の国内法:労働基準法第32条で法定労働時間(1日8時間・週40時間)が定められています。これを超える時間外労働は、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結・届出が必須です。
36協定の重要性:「1日あたりの時間外労働時間」は、この36協定で具体的に定められます。特別条項を設ける場合でも、法的な上限(月100時間未満等)と併せて、1日の上限を遵守する必要があります。
国際基準:RBAやSA8000などの国際基準は、週60時間という総労働時間の上限や、時間外労働の自発性を重視しており、国内法の遵守に加え、これらの基準の精神を尊重することが求められます。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 36協定による上限設定
「1日あたりの時間外労働時間」が、法令に基づき労使間で合意・締結・届出されていることを証明します。
- 「1日の上限時間」が明確に記載された、最新の36協定書の写し(特別条項を含む)。
- 労働基準監督署の受理印がある届出書の控え。
- 過半数代表者の適正な選任プロセスを示す記録。
2. 就業規則によるルール整備
時間外労働を命じる際の手続きやルールが社内規定として明確に定められ、周知されていることを示します。
- 時間外労働の命令手続や割増賃金率を定めた就業規則・賃金規程。
- 「36協定の範囲内で時間外労働を行わせる」旨の記載。
- 従業員への周知記録(掲示、書面交付、イントラネット掲載等)。
3. 客観的な労働時間記録
日々の始業・終業時刻が、改ざん困難な客観的方法で正確に記録されていることを証明します。
- タイムカード、ICカード、PCログ、生体認証等の客観的な打刻記録データ。
- 自己申告制の場合、PCログ等との突合による実態調査・検証記録。
- 業務日報や作業報告書(上長確認済みのもの)。
4. 時間外労働の事前承認プロセス
不要不急の時間外労働を抑制し、上限遵守を確実にするための管理プロセスが機能していることを示します。
- 時間外労働の事前申請・承認のワークフロー記録(電子または書面)。
- 申請時に1日の上限を超えないかを確認するプロセスが組み込まれている記録。
- 承認基準に関する管理者向けマニュアル。
5. 日次での実績モニタリング
全従業員の日々の時間外労働時間が、36協定で定められた「1日の上限」を超えていないことを実績データで証明します。
- 日ごと・従業員ごとの時間外労働時間の実績レポート。
- 勤怠管理システムから出力された、1日の上限遵守状況を示すダッシュボードや集計データ。
6. 勤怠管理システムとアラート
上限超過を未然に防ぐための予防的措置として、テクノロジーを活用した管理体制が機能していることを示します。
- 36協定の各上限値が設定された勤怠管理システムの仕様書や設定画面。
- 1日の上限時間に近づくと自動で警告を発するアラート機能の設定内容と、実際の通知履歴。
7. 割増賃金の正確な支払い
時間外労働に対して、法令及び社内規定に基づき、適正な割増賃金が支払われていることを証明します。
- 勤怠記録と整合性のある、賃金台帳の時間外労働時間数と割増賃金額。
- 給与明細書における時間外手当の内訳表示。
- 銀行振込記録などの支払証拠。
8. 健康確保措置の実施
上限に近い時間外労働が発生した場合でも、労働者の健康を守るための具体的な措置を講じていることを示します。
- 長時間労働者に対する産業医等による面接指導の実施記録。
- 医師の意見に基づき講じた就業上の措置(労働時間の短縮、業務内容の変更等)の記録。
9. 管理職への教育・研修
部下の労働時間を管理する管理職に対し、関連法規や上限遵守の重要性に関する適切な教育を行っていることを示します。
- 労働時間管理、36協定、ハラスメント防止に関する研修資料と参加者リスト。
- 研修後の理解度テストの結果やアンケート。
10. 経営層への報告体制
時間外労働の遵守状況が経営レベルでモニタリングされ、必要な意思決定が行われていることを示します。
- 取締役会や経営会議への、1日の上限遵守状況を含む時間外労働実績の定期報告資料。
- 報告内容に対する経営層からの指示やコメントが記載された議事録。
11. 内部監査と是正措置
定期的な内部監査を通じて遵守状況を自己評価し、問題が発見された場合に適切に対応する仕組みがあることを示します。
- 内部監査または外部専門家による労務監査報告書。
- 監査チェックリスト(1日の上限遵守に関する項目)。
- 指摘事項に対する是正措置計画と完了報告。
12. 苦情処理メカニズム
従業員が上限超過やサービス残業等を不利益なく報告できる実効性のある窓口は、自浄作用の存在を示します。
- 内部通報・相談窓口に関する社内規程と周知資料。
- 時間外労働に関する通報があった場合の調査・対応記録の概要(プライバシーに配慮)。
結論:継続的な改善による信頼性の高い遵守体制の構築
「1日あたりの時間外労働時間の制限」の遵守を証明するには、36協定の適正な運用を基礎とし、日々の客観的な労働時間記録から、管理・監視、支払い、健康配慮、教育、監査に至るまでの一貫した証拠群が必要です。
これらの証拠を体系的に整備し、PDCAサイクルを通じて継続的に管理体制を改善していくことは、法的リスクを低減するだけでなく、従業員の健康と福祉を守り、持続可能な企業経営を実現するための不可欠な投資です。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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