JASTI 9-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 9-2 原文
工場は、外国人労働者に対し、外国人労働者が理解できる言語で、就業前に、就業場所および寮における就業規則・規程、安全衛生基準、火災その他の緊急時の避難経路、避難訓練その他の業務に関連した労働安全衛生に関する事項について、研修を行わなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、外国人労働者に対し、外国人労働者が理解できる言語で、就業前に、就業場所および寮における就業規則・規程、安全衛生基準、火災その他の緊急時の避難経路、避難訓練その他の業務に関連した労働安全衛生に関する事項について、研修を行います。」
補足説明:法的・人権的背景
日本の国内法:労働安全衛生法第59条は、全ての労働者(外国人労働者を含む)に対し、雇入れ時に安全衛生教育を行うことを義務付けています。違反には罰則があります。厚生労働省の指針は、特に外国人労働者には母国語など「理解できる方法」での説明を求めています。
国際人権基準:「安全で健康的な労働条件に対する権利」は、国際人権規約で保障された基本的人権です。効果的な就業前研修は、この権利を保障し、外国人労働者の脆弱性を悪用しないための具体的な措置として、国際社会から期待されています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 研修計画とカリキュラム
外国人労働者向けの就業前研修が、体系的かつ計画的に設計・実施されていることを示します。
- 就業前研修の目的、内容、スケジュールを明記した研修計画書。
- コミットメントの全項目(就業規則、安全衛生、緊急時対応等)を網羅した詳細なカリキュラム。
2. 多言語対応の研修資料
研修内容が、外国人労働者の母国語等、理解可能な言語で提供されていることを具体的に証明します。
- 翻訳された就業規則、安全マニュアル、緊急時対応計画の実物サンプル。
- 多言語字幕付きの研修ビデオや、絵文字・図解を多用したポスター。
- 厚労省等が提供する多言語教材の活用記録。
3. 通訳・多言語トレーナー
口頭での説明や質疑応答が、言語の壁なく行われる体制があることを示します。
- 専門通訳者との業務委託契約書や、研修時の通訳ログ。
- 研修を担当したバイリンガル社員の言語能力証明や担当記録。
4. 就業前実施の証明
安全衛生研修が、実際の業務を開始する「前」に完了していることを客観的に示します。
- 研修スケジュール(入社初日・二日目等に研修が組み込まれていること)。
- 研修修了日と、実際の業務開始日(勤怠記録や業務日報から)の比較記録。
5. 研修実施記録と出席証明
誰が、いつ、どの研修を受けたかを明確に記録し、研修実施の事実を証明します。
- 各研修セッションの日付、内容、講師、出席者名を記載した研修ログ。
- 出席者本人による署名入りの出席者名簿。
- 研修で使用した資料のバージョン管理記録。
6. 労働者の理解度確認
研修が一方的な情報伝達でなく、労働者が内容を実質的に理解したことを確認する措置を講じていることを示します。
- 研修内容を理解した旨の、労働者本人による署名入り確認書。
- 研修後の簡単な理解度テスト(多言語対応)の結果。
- 保護具の正しい装着など、安全行動に関する実地訓練の評価記録。
7. 就業規則・寮規則の研修
職場と生活の両面で、労働者が守るべきルールと自身の権利を理解していることを保証します。
- 就業規則・寮規則の翻訳版と、それを用いた研修の記録。
- 賃金、労働時間、休日、禁止事項など、主要な規則を説明した研修資料。
8. 安全衛生基準の研修
労働安全衛生法が定める雇入れ時教育の内容を網羅し、職場の具体的なリスクに応じた研修を実施していることを示します。
- 機械の危険性、安全装置、作業手順、保護具(PPE)の使用方法などに関する研修記録。
- 化学物質の取り扱いや腰痛予防など、特定の業務に特化した研修の記録。
9. 緊急時対応と避難訓練
火災や地震などの緊急時に、労働者が自身の安全を確保するための知識と行動を身につけていることを証明します。
- 多言語で表示された避難経路図と、それを用いた研修記録。
- 外国人労働者が参加した避難訓練の実施記録(日時、シナリオ、参加者名簿)。
- 訓練後のレビューと改善点の記録。
10. 相談・苦情処理メカニズム
労働者が安全や処遇に関する懸念を、不利益を恐れることなく相談・報告できる窓口があることを示します。
- 多言語対応の相談窓口の設置と周知記録。
- 研修中に、相談窓口の利用方法や秘密保持、報復禁止について説明した記録。
11. 研修の継続的な改善
研修プログラムが、フィードバックや状況変化に応じて見直され、常に実効性を保つよう努めていることを示します。
- 研修効果に関する労働者からのフィードバック収集記録。
- 事故やヒヤリハットの発生を受け、研修内容を改訂した記録。
- 法改正や新たなリスクに対応した研修プログラムの更新履歴。
12. 監査と検証
研修の実施状況と実効性が、社内外の客観的な視点から定期的に検証されていることを示します。
- 外国人労働者への安全衛生教育に関する内部監査の報告書。
- 労働基準監督署の調査において、研修の実施状況が適正と判断された記録。
- 第三者による社会監査(RBA等)における良好な評価。
結論:安全文化の醸成と継続的改善
外国人労働者への適切な就業前研修は、法的義務の履行に留まらず、全ての労働者の安全と健康を守り、人権を尊重する企業文化の根幹をなすものです。重要なのは、単に研修を実施したという事実だけでなく、その内容が労働者に真に理解され、日々の安全行動に結びついているかです。
本報告書で提示された多角的な証拠を体系的に整備し、研修内容を継続的に見直し・改善していくことで、企業は信頼性の高いコンプライアンス体制を内外に示し、持続可能な事業運営の基盤を強化することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。