投稿日

  カテゴリー:

,

  投稿者:

JASTI 9-5 遵守の証拠

JASTI 9-5 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 9-5 原文

工場は、従業員を採用する際、正当な理由のない金銭を従業員が仲介業者、または斡旋業者に支払っていないことを確認しなくてはならない。

達成すべきコミットメント

「私たちは、労働者等を採用する際、正当な理由のない金銭を労働者等が仲介業者、または斡旋業者に支払っていないことを確認します。」

補足説明:国際基準と国内法

雇用者負担の原則:ILOやIOMなどの国際機関は、採用にかかる費用は労働者ではなく雇用主が負担すべきという「雇用者負担の原則」を提唱しています。これは、労働者が採用手数料のために借金を負い、債務による束縛(強制労働の一形態)に陥るのを防ぐためです。

国内法の規制:日本の職業安定法は、求職者からの手数料徴収を原則禁止しています。また、労働基準法は賃金からの不当な天引きを禁じており、これらの法律は労働者を搾取的な費用負担から保護しています。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 方針と行動規範

「雇用者負担の原則」を支持し、労働者からの手数料徴収を明確に禁止する方針を文書化し、経営層が承認していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 取締役会承認済みの人権方針。
  • 手数料不徴収を明記したサプライヤー/人材斡旋業者行動規範。
  • 経営トップによる方針遵守のメッセージ。

2. 斡旋業者の事前審査

契約前に、人材斡旋業者が法的要件を満たし、倫理的に運営されているかを厳格に審査していることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 厚労省の「有料職業紹介事業許可証」の写しと有効性確認記録。
  • 斡旋業者の手数料構造や過去の行政処分歴に関する調査記録。
  • 行動規範遵守を求める「誓約書」への署名。

3. 契約による管理

人材斡旋業者との契約書に、手数料禁止の原則を法的拘束力のある形で盛り込んでいることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 署名済みの契約書。
  • 手数料ゼロの保証、監査権、違反時の返金・契約解除義務などを定めた具体的な人権条項。

4. 監査とモニタリング

契約後も、斡旋業者の遵守状況を定期的に確認するための、体系的な監視・監査プロセスが機能していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 斡旋業者に対する自己評価質問票(SAQ)の実施記録。
  • 自社または第三者による現地監査の報告書。
  • 監査チェックリスト(手数料に関する項目を含む)。

5. 労働者インタビュー

書類監査の限界を補い、実態を把握するため、労働者本人から直接話を聞く機会を設けていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 機密性を保持し、母国語で行われた労働者面談の議事録(個人が特定されない要約)。
  • 手数料支払いの有無や金額、借金の有無などを確認する質問票。

6. 是正措置と手数料の返金

違反が発見された場合に、労働者への手数料返金を含む、迅速かつ実効性のある是正措置を講じていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 違反業者への是正措置計画(CAP)の要求と、その実施記録。
  • 労働者に手数料が全額返金されたことを示す銀行振込記録や受領書(匿名化)。
  • 再発防止策の実施記録。

7. 苦情処理メカニズム

労働者が手数料に関する問題を安全に報告できる、アクセスしやすく信頼性の高い窓口が機能していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 多言語対応の内部通報・相談窓口の周知資料と運用記録。
  • JP-MIRAI等の第三者機関が運営する救済プラットフォームへの参加。
  • 苦情データの分析とリスク評価への活用記録。

8. 社内連携体制

採用手数料の問題に全社的に取り組むため、法務、人事、調達などの関連部署が連携していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 外国人労働者の採用に関する部署横断的な会議体の議事録。
  • 斡旋業者選定における各部署の役割分担を定めた規程。

9. 担当者への専門研修

採用やサプライヤー管理の担当者が、手数料問題のリスクと適切な対応策を深く理解していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 「雇用者負担の原則」に関する詳細な研修資料。
  • 人権デューディリジェンスの実践方法に関するワークショップの実施記録。

10. ステークホルダーとの協働

業界団体やNGO、専門家と連携し、業界全体の課題解決と自社の取り組み改善に努めていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • JP-MIRAI等の業界プラットフォームへの参加記録。
  • 人権問題を専門とするNGOやコンサルタントとの対話の議事録。
  • 共同でのサプライヤー能力構築プログラムへの参加。

11. 透明性のある情報開示

採用手数料に関するデューディリジェンスのプロセス、発見事項、是正措置について、外部に透明性をもって報告していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 人権報告書や現代奴隷法声明での具体的な記述。
  • 発見された手数料支払いの件数や返金総額などの定量的なデータ開示。

12. 継続的改善プロセス

一度きりの確認ではなく、PDCAサイクルを通じて採用プロセスとサプライヤー管理を継続的に改善していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 監査や苦情から得られた知見を、次期のデューディリジェンス計画や方針見直しに反映した記録。
  • 改善目標(KPI)の設定と進捗追跡の記録。

結論:問題発見・解決能力の証明

採用手数料の問題に関するコミットメントの達成は、「問題が一切ない」ことを証明するのではなく、「問題を発見し、効果的に是正するための堅牢なシステムが機能している」ことを証明することにあります。

証拠ポートフォリオを体系的に構築・維持し、是正事例を透明性をもって開示することは、企業の真摯な姿勢と実効性のある人権デューディリジェンスの実践を示し、すべてのステークホルダーからの信頼を獲得する上で不可欠です。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。