JASTI 1-7-4 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 1-7-4 原文
工場は、従業員に対し、いかなる脅迫、金銭的な罰則を科してはならない。処罰の理由には、業績が上がらない、規則違反などの場合も含む。但し、法令に従い許容される懲戒処分としての賃金の減給は除く。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等に対し、業績不振や規則違反等を理由としたあらゆる脅迫や金銭的な処罰を科しません。但し、法令に従い許容される懲戒処分としての賃金の減給処分を科すことはあります。」
補足説明:法的根拠と国際基準
国際人権基準:ILO第29号条約(強制労働:罰の脅威の禁止)、ILO第95号条約(賃金保護:不当な控除の禁止)、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs:人権デューデリジェンス、救済メカニズム)などが、このコミットメントの根幹をなします。
日本の国内法:労働基準法(第16条:賠償予定の禁止、第91条:減給の制限)、労働契約法などが、脅迫や不当な金銭的処罰を禁じ、適法な懲戒処分の枠組みを定めています。
コミットメント達成の意義
このコミットメントを達成することは、労働者の尊厳と権利を保護し、強制労働や搾取のリスクを排除するために不可欠です。公正な職場環境は、従業員の信頼とエンゲージメントを高め、企業の持続可能性とレピュテーション向上に貢献します。国際的な人権尊重の潮流に沿った企業行動を示すことにも繋がります。
脅迫や金銭的処罰の禁止 遵守を裏付ける証拠カテゴリー
1. 方針・規則・契約の整備
脅迫・不当な金銭的処罰を禁止する方針、規則、契約を整備し、全従業員に周知します。
- 脅迫・金銭的処罰禁止、国際基準遵守を明記した人権方針・行動規範。
- 減給制限(労基法91条)、賠償予定禁止(同16条)、保証金禁止等を明記した就業規則。
- 保証金要求・違法罰金等を課さない条項を含む雇用契約書。
- これらの文書の取締役会等による承認、全従業員への周知徹底の記録(多言語対応含む)。
2. 実効的な苦情処理メカニズム
労働者が報復を恐れず懸念を表明できる、実効性のある苦情処理メカニズムを運用します。
- 脅迫・不当処罰に関する苦情申立手続きを定めた文書。
- 匿名性、報復禁止、複数チャネル、迅速・公正な対応、フィードバックを保証する規定。
- 苦情処理メカニズムの周知記録(多言語対応)。
- 苦情受付、調査、解決、フィードバックの運用記録(個人情報保護配慮)。
3. 研修と意識向上
管理者および労働者に対し、関連方針や権利について研修を実施し、意識向上を図ります。
- 管理職向け:公正な懲戒、脅迫・威圧行為禁止、法的制限、苦情対応に関する研修記録。
- 労働者向け:自身の権利、会社方針、苦情処理利用方法に関する研修記録(多言語対応)。
- 方針伝達のためのコミュニケーション資料(ポスター、ハンドブック等)。
- 労働者の理解度確認の記録(テスト、質疑応答等)。
4. 禁止される慣行の防止
脅迫、不当な金銭的処罰、身分証明書の不当な預託を明確に禁止し、予防措置を講じます。
- 脅迫(解雇示唆、過度な監視、心理的圧力等)の禁止と予防策の記録。
- 金銭的処罰(根拠なき罰金・減給、違約金、保証金没収、採用手数料負担等)の禁止。
- 身分証明書・旅券の預託禁止方針、労働者による自己管理の証拠(一時預かり時の記録)。
- 上記禁止事項に関する労働者からの聞き取り調査・アンケート結果。
5. 適法な懲戒処分と記録
法令及び就業規則に基づく懲戒処分を実施し、そのプロセスと内容を正確に記録・管理します。
- 就業規則に定める懲戒事由・手続き(事実調査、弁明機会付与等)の遵守記録。
- 減給処分の労基法91条(上限額)遵守の記録(計算根拠含む)。
- 個別懲戒事案記録(事由、調査、弁明、処分理由・内容、通知記録)。
- 懲戒記録の機密保持とアクセス管理の方針・記録。
6. 給与・財務記録の透明性
給与支払い記録および財務諸表において、不当な控除や処罰がないことを確認します。
- 賃金台帳に不当な控除、罰金、名目不明な天引きがないことの確認記録。
- 会計帳簿に「保証金」「違約金」が不当に計上されていないことの確認。
- 「雑収入」「預り金」等が不適切処罰の隠蔽に使われていないかの検証記録。
- 採用手数料・保証金を徴収していない証拠(過去徴収の場合は返還記録)。
7. 労働者の声の聴取
労働者からの聞き取りやアンケートを通じて、脅迫や不当処罰の経験有無、制度への認識を確認します。
- 脅迫・不当処罰・金銭的負担の経験有無に関する聞き取り・アンケート結果(匿名性確保、多言語対応)。
- 懲戒手続きの公正さ、苦情処理メカニズム認知度・利用しやすさに関する認識調査結果。
- 経営層・管理職が関連方針・実施状況を議論した会議議事録。
- 労働者代表との協議や労働者集会での意見交換記録。
8. モニタリング・監査と改善
方針の遵守状況を定期的に監視・監査し、結果に基づき継続的な改善を図ります。
- 労働慣行、懲戒手続き、賃金控除、脅迫・処罰防止策に関する内部監査報告書。
- 外部社会的監査報告書(SMETA、SA8000等)での関連所見と是正状況。
- 監査指摘事項に対する是正措置計画(CAPs)と実施・フォローアップ記録。
- 監査結果、フィードバック、法改正等を踏まえた方針・運用の見直しと改善記録。
持続的なコンプライアンスと人権尊重文化の醸成
労働者保護のコミットメント達成には、方針の明確化、全従業員への周知と教育、公正なプロセスの確立、適切な記録管理、実効性のある苦情処理、そして継続的な改善サイクルが不可欠です。
企業は、これらの証拠カテゴリーを参考に自社の取り組みを評価し、労働者の権利を真に尊重し、公正性と透明性を重んじる企業文化を醸成していくことが求められます。経営層のリーダーシップ、管理職への教育、全従業員の意識向上が鍵となります。
重要な注意点
ここで挙げた証拠は、JASTI要求事項が実際に遵守されていることを示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分にJASTI要求事項の遵守を証明又は疎明できることもあります。 それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。