JASTI監査は繊維業の特定技能受入れに必要な監査の一つ。適合判定獲得には国際人権基準遵守が必須。

JASTI監査は、経済産業省が策定した「JASTI(Japanese Audit Standard for Textile Industry:繊維産業の監査要求事項・評価基準)」に基づいて実施される第三者監査です。国際人権基準の遵守しているかどうかが問われます。

繊維業の事業者が特定技能外国人を雇い入れるには、結局のところ、経済産業省指定の監査を受けて適合判定を得なければなりません。この「経済産業省指定の監査」で最もメジャーなものがJASTI監査です。JASTI監査は、要求事項・評価基準を経済産業省自身が策定したのですから、メジャーになるのは当然です。

また、JASTI監査は、繊維業の事業者が育成就労外国人労働者を受け入れる際にも「越えなければならない壁」となりそうです。JASTI監査の重要度は、今後ますます高まりそうです。

人手不足倒産がかつてない水準にある今、繊維産業に属する企業にとって、JASTI監査への対応は死活問題と言えます。

目次

これからの外国人雇用制度の概要

JASTI監査は外国人を雇用するために受けるものですから、JASTI監査について考える前提として、外国人雇用制度の概略を頭に入れておく必要があります。

ということが重要です。これらの点については、令和6年入管法等改正法について | 出入国在留管理庁 において、情報がまとまっています。役立つPDFを二つほどピックアップしておきます。

その後、育成就労制度についての基本方針が2025年3月に閣議決定されました。

今はまだ育成就労制度の詳細は決まっていない

2025年10月現在においては、育成就労の詳細が決まったとは到底言えません。

育成就労制度の概要」の4ページ目が特に重要です。

詳細が固まりつつある特定技能制度への対応が優先

今の時点で詳細が決まっていない育成就労制度への対応をあれこれと考えても、時間の無駄です。

繊維産業に属する企業が外国人労働者確保策を考えるなら、最優先で対処すべきは特定技能制度の利用による外国人雇用です。以下、外国人材の受け入れ及び共生社会実現に向けた取組(出入国管理庁ホームページ)からですが、

技能実習生として3年~5年働いていて技能実習2号を良好に修了した者は、試験等免除で特定技能(最大5年)に移行することが出来ます。

特定技能の外国人を雇用することが出来るようになれば、技能実習生として来日した外国人労働者が、来日後8年~10年働いてくれることになります。

特定技能の外国人を雇用することが出来なければ、来日後8年~10年働いてくれるなんてことは望むべくもなく、せっかく育てた外国人労働者をもっと早く帰国させなければならなくなるでしょう。

特定技能外国人を受け入れるには事業の該当性確認が必要であり、製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会(以下「受入れ協議・連絡会」と短縮表記します。)への入会が必須です。

ところが、繊維業の上乗せ4要件について (2025年4月 経済産業省 製造産業局 生活製品課) によれば、繊維産業に属する企業の協議・連絡会への入会には次の4要件が求められます。これらの要件は、他産業に属する企業の協議・連絡会への入会には要求されない追加要件です。

  1. 勤怠管理を電子化していること
  2. パートナーシップ構築宣言の実施
  3. 特定技能外国人の給与を月給制とする
  4. 国際的な人権基準を遵守し事業を行っていること

1.~3. については、リンク先にて詳細をご確認ください。

「国際的な人権基準を遵守し事業を行っていること」とは、「ビジネスと人権」への対応です。具体的には、経済産業省指定の第三者認証・監査で適合判定を得ることです。そのような認証監査には、次のような藻があります。

どれを利用しても、国際的な人権基準を遵守していることについてお墨付き(適合判定)を貰うという点は同じです。

JASTI監査は、国際人権基準遵守の監査で最もメジャー

第三者認証・監査では、 圧倒的にJASTIがおすすめです。

経産省策定の安心感、情報量の多さ

JASTIは、経済産業省が策定した基準なので安心感があります。

ヘルプ・サポートに関する情報は、JASTIポータルサイトや経産省を通じて豊富に提供されています。

また、育成就労制度でも、JASTIに対応することで様々なメリットが期待できそうな情勢にあります。

JASTI監査は費用が安い

そして、JASTIの認証・監査費用は比較的安価です。

JASTI監査機関である一般財団法人ケケン試験認証センターや一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、監査費用を20万円と明示しています。

国際規格の認証では、100万円越えの費用を覚悟しなければならないことが多い中、JASTIの監査費用はかなり安いです。

JASTI監査の要求事項は全84項目154事項 – ハードルは低くない

繊維業の上乗せ4要件について2025年4月製造産業局 生活製品課 によれば、JASTIの監査要求事項は、9分野全84項目154事項です。9分野ごとの項目数は下記のとおりです。

領域(分野)項目数主な焦点・具体例
1. 強制労働9項目暴力の禁止、パスポート等の取り上げ禁止、不当な手数料徴収の禁止
2. 児童労働6項目法律で定められた年齢を守っているか、若年労働者の労働条件は適切か
3. 差別・ハラスメント9項目性別や障害による差別の禁止、パワハラ・セクハラの禁止
4. 結社の自由・団体交渉権2項目労働組合への加入を妨げていないか、団体交渉を尊重しているか
5. 労働安全衛生22項目建物の安全性、消火器の設置、化学物質の管理、保護具の提供、清潔な飲み水の確保
6. 雇用及び福利厚生13項目労働契約書をきちんと渡しているか、福利厚生は適切か
7. 賃金8項目最低賃金を遵守しているか、給与明細は整備されているか
8. デュー・ディリジェンス6項目人権方針があるか、従業員の意見を聞く仕組みや苦情処理の仕組みがあるか
9. 外国人労働者9項目差別的な扱いはないか、母国語で契約説明をしているか、住居支援は適切か

「法令遵守」以外の項目が非常に多いため、労働社会保険諸法令をはじめとした日本国内の法令の遵守だけでは、JASTI の監査要求事項はクリアできません。JASTIのハードルは低くありません。

JASTI監査の判定の仕組み

監査は「持ち込み可能な面接試験」という側面もありますから、きちんと勉強して「持ち込み資料」を作りこみ、準備万端にして監査当日を迎えることが肝要です。しかし、言うは易し行うは難しです。JASTI監査の要求事項は全84項目154事項もあるうえ、ハードルも低くありません。心が折れそうになる人もいるかもしれません。

でも、大丈夫です。すべてを完璧にやらなくても、適合判定はもらえます。つまりは、メリハリをつけて、勉強や「持ち込み資料」の準備をする必要があるのです。ただ、メリハリを適切につけるには、JASTI監査の判定の仕組みを把握する必要があります。

要求事項ごとに重要度が設定されている

JASTI監査の要求事項は全154事項ごとに重要度が設定されています。各項目には以下の3段階の「重要度」が設定されています。

  1. ZT (Zero Tolerance:ゼロ・トレランス)
    • 最も重要度が高い項目。
    • 強制労働や児童労働など、国際的な人権基準の根幹に関わる重大な違反項目が該当します。
  2. MJ (Major:メジャー)
    • 重要度が高い項目。「1発アウト」ではないが、配点が高いというイメージです。
  3. MN (Minor:マイナー)
    • 重要度が低い項目。「1発アウト」でもないし、配点も低く、判定への影響が軽微(Minor:マイナー)というような意味合いです。

監査では、これらの重要度ごとに「不適合(違反)」の数をカウントし、その数に応じて最終的な判定が決定されます。

JASTI監査の判定結果は3種類

企業 JASTI監査 A判定 B判定 判定なし

JASTI監査の判定は、「A 判定」・「B 判定」・「判定無し」の3種類です。重要度(ZT, MJ, MN)ごとの不適合の数を集計し、設定された「判定基準」に基づき決定されます。

先ほども書いたように、ZTの事項で1つでも不適合があると、監査全体の判定が「判定なし(不適合)」となります。

判定結果は、特定技能外国人の受け入れ可否や、次回の監査時期の目安に影響します。

  • 内容: 最も優れた評価です。重大な違反(ZT)がなく、その他の違反(MJ, MN)も極めて少ない、または無い状態です。
  • 国際的な人権基準に適合していると認められます。
  • 適合判定の有効期間は2年。翌年は監査を受ける必要はなく、よくよく年に受ければいいです。
  • 内容: 基準を満たしていると認められる評価です。重大な違反(ZT)はありませんが、MJ(メジャー)やMN(マイナー)の不適合が一定数存在する場合に該当します。
  • 国際的な人権基準に適合していると認められます。
  • 適合判定の有効期間は1年翌年も監査を受けなければなりません。
  • 内容: 基準を満たしていない状態です。ZT(ゼロ・トレランス)項目で1つでも不適合がある場合や、MJ(メジャー)の不適合が多数ある場合に該当します。
  • 国際的な人権基準に不適合とみなされ、特定技能は受け入れられせん。
  • 不適合是正後に再監査を受け、A判定・B判定を得る必要があります。

2回目以降は初回監査よりハードルが上がる

JASTI監査は、事業者が取り組みやすいように、監査の回数によって判定基準が一部異なります。

このように、JASTI監査は「違反ゼロ」を厳格に求める認証制度とは異なり、企業の継続的な改善努力を促す仕組み(第三者監査制度)として設計されています。

JASTI監査で適合判定を得るには?

では、JASTI監査という決して低くないハードルを越えるにはどうすればいいでしょうか?

そこにはやはり、踏むべき手順があります。

まず「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」で基礎固め

まず、JASTIそのものを勉強する前に、基礎固めをします。基礎固めとは、「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を読み、国際的な人権基準を理解することです。

※以下、「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」は単に「ガイドライン」と短縮表記することがあります。

なぜ、「ガイドライン」で基礎固めをするのかといえば、経済産業省が「JASTIの監査要求事項は『ガイドライン』に基づいて策定した」との旨を記述しているからです。

経済産業省が策定する繊維産業の監査要求事項・評価基準について

  • 2024年2月、経済産業省は、日本繊維産業連盟が国際労働機関(ILO)駐日事務所と協力して策定した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」及び主な国際イニシアチブ・国際認証をもとに以下の監査要求事項の84項目を整理。
  • 2024年度には、監査要求事項の84項目をベースにして監査要求事項・評価基準の精緻化を行い、
    「Japanese Audit Standard for Textile Industry(JASTI)」を策定。
繊維業の上乗せ4要件について2025年4月製造産業局 生活製品課

したがって、JASTI監査対策へのベースとして、「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を読んで、内容を理解することはとても大事です。

特に、「国際的に認められた人権の基準」を理解することが大事です。

繊維業の上乗せ4要件について(2024年9月4日 経済産業省 製造産業局 生活製品課)

「国際的に認められた人権の基準」は「国際的な人権基準」のことであり、「国際的な人権基準を遵守し事業を行っていること」をクリアするカギになります。「国際的に認められた人権の基準」の中でも特に労働における基本的原則及び権利に関するILO(国際労働機関)宣言を深く理解することが重要です。

これらの「国際的に認められた人権の基準」について、繊維産業向けに世界一わかりやすく書かれているガイドブックが「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」なのです。

なにしろ、「ガイドライン」の作成には、ILO(国際労働機関)が協力していますから、労働における基本的原則及び権利に関するILO(国際労働機関)宣言の内容について、これ以上に分かりやすく書かれたものはありません。。

ガイドライン学習と並行して、必要書類の作成・整備

JASTI監査ではかなり多くの書類を作成・準備しないといけません。特に監査時必要資料が多いのですが、これをある程度揃えてからでないと、JASTI監査の申し込みすらできないケースがあります。

いくつかの監査機関では、JASTI監査申込み時に書類の整備状況を問い、監査時必要書類のうちいくつかを送信させます。ここで書類の整備が進んでいないことが明らかになると、申し込みを受け付けてもらえないのです。

ですから、書類の作成・整備はできるものからなるべく早く、取り組まないといけません。

書類の作成・整備と監査の申し込みは切っても切り離せません。どうせなら、早い段階から監査を実施する機関にコンタクトを取りましょう。監査を実施する機関としては、次のようなところがあります。

また、JASTI監査対応可能社労士リスト に掲載されている社労士に連絡を取って、監査を依頼してもよいです。

ガイドライン学習後、JASTI監査要求事項全154事項に取り組む

JASTI監査の要求事項には、以下の3段階の重要度が設定されています。この順番で対応してください。

「重要度」を意識してメリハリをつけた取り組みを行うことが肝要です。

JASTI監査の仕組みのところでも書きましたが、ZT事項に1つでも不適合があると、監査全体の判定が「判定なし(不適合)」となってしまい、特定技能外国人の受け入れができなくなります。

つまり、ZT事項は「一発アウト」のよう注意事項です。

MJ事項は「ZT事項のように1発アウトではないものの、配点は高い事項」というイメージです。ただ、油断は大敵です。

JASTI監査の判定は、重要度(ZT, MJ, MN)ごとの不適合の数を集計し、設定された「判定基準」に基づき、「A 判定」・「B 判定」・「判定無し」の3種類で決定されます。Z

ZT事項の不適合が一つもなかったとしても、MJ事項であまりにも不適合が多いと、全体の得点が伸びずに監査全体の判定が不適合となる可能性は十分にあります。

MN事項は、優先度は低いです。初回の監査では、監査全体に与える影響は本当に軽微です。

2回目以降の監査ではそうはないかないので油断できませんが、それでもMN事項は後回しです。まずは、ZT事項やMJ事項から取り組みます。

直前期は、ひたすら練習です。

監査は「持ち込み可能な面接試験」とも言えます。ひたすら模擬面接で実践力を鍛えます。

ビジネスと人権(BHR)推進社労士が伴走支援します

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

全国社会保険労務士会の「社労士によるJASTI対応のイメージ」によれば、「基本的な労務管理の土壌をつくり上げるには、すべての社労士で対応。BHR推進社労士の方がより『ビジネスと人権』を意識した対応が可能。」とあります。

弊事務所では、ビジネスと人権(BHR)推進社労士が責任をもって、JASTI監査対応のコンサルティングを行います。

貴社が、適切かつ効率的に、JASTI監査で適合判定を得ることを目指すなら、是非とも私どもHCDコンサルティングにお声がけくださいませ。

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