今後、東京都の公共調達の入札資格審査では、東京都社会的責任調達指針(以下「調達指針」と略すことがあります)の「義務的事項」への取り組みが求められます。具体的には‥
- 入札資格審査において「東京都社会的責任調達指針に関するチェックリスト」(以下「チェックリスト」)の提出が求められます。
- チェックリストの義務的項目(27項目)の中に、たった一つでも「取り組んでいない」があると、原則として東京都の公共調達の入札に参加することはできません。
- チェックリストの推奨的事項は、取り組まなくても入札参加に支障はありませんが、インセンティブ(総合評価方式入札での加点等)として入札結果に影響します。
チェックリストへの対応が、入札参加の可否や入札結果を左右します。場合によっては企業の命運をも左右します。
東京都の公共調達に関連する売上が大きい企業様におかれましては、可及的速やかに適切な対応をされますよう、強くおすすめします。
目次
東京都社会的責任調達指針とは
そもそも、東京都社会的責任調達指針とは何なのでしょうか。
都は、同戦略を踏まえ、経済合理性のみならず持続可能性にも配慮した調達を行うことを通じて、都の調達に留まらず、企業の調達においても、環境、人権、労働及び経済の各分野での望ましい慣行を敷えんさせ、持続可能な社会に貢献することを都の社会的責任と捉え、これを果たすための指針として、「東京都社会的責任調達指針」(以下「調達指針」という。)を策定した。
東京都社会的責任調達指針 令和6年7月 東京都
敷えんとは「押し広げる」「延べ広げる」という意味です。言い換えれば、プレッシャーをかけて広く定着させることです。
つまり、東京都社会的責任調達指針は、「企業にプレッシャーをかけて、環境、人権、労働及び経済の各分野での望ましい慣行を広く定着させることを東京都の社会的責任と捉え、本気で実行していく」という指針であると読めるわけです。
東京都の公共調達に入札する企業に対しては、この先も長期にわたって、調達指針からのプレッシャーがかかり続けます。とても大変です。
今すぐに、本気で対策する必要があります。
「ビジネスと人権」への取り組みも必要
指針のうち、人権・労働の分野では、いわゆる「ビジネスと人権」に真剣に取り組むことが要求されています。
調達指針への対応に苦しむ企業様への支援は、BHR推進社労士(「ビジネスと人権」に真剣に取り組む社労士)の社会的使命だと思います。
私も、BHR推進社労士の一人として、調達指針への対応を支援させていただきたいと思っております。
東京都社会的責任調達指針の適用対象は‥
東京都社会的責任調達指針への対応は大変です。まず、その適用範囲を確認しておきましょう。
調達指針は、都が行う調達の全てを対象とする。ただし、適用に当たっては経過措置を設けることとし、具体的な措置の内容については、別途定めることとする。
東京都社会的責任調達指針【解説版】
本来、調達指針は東京都のすべての公共調達に適用されます。いずれ本当にそうなります。
ただし、経過措置により、令和7・8年度(2025年度・2026年度)の公共調達については、調達指針が適用されるのは下記調達に限られます。
契約第一課
区分 | 予定価格 |
---|---|
建築工事 | 3億5,000万円以上 |
土木工事・20t以上の船舶の製造及び修繕 | 2億5,000万円以上 |
設備工事 | 4,000万円以上 |
地質調査、測量、設計及び工事の監理業務の委託契約 | 2,000万円以上 |
契約第二課
区分 | 予定価格 |
---|---|
委託契約及び労働者派遣契約 | 2,000万円以上 |
物品の買入 | 3,000万円以上 |
印刷物の製作 | 1,500万円以上 |
また、指針の詳細は、下記書面にてご確認ください。
入札参加資格審査にて、チェックリスト提出が必要
下記の通り、今後の定期受付から、チェックリストの提出が義務付けられます。
令和7・8年度東京都競争入札参加資格審査の定期受付から、「東京都社会的責任調達指針」に関するチェックリストをご提出いただきます。
令和7・8年度 東京都競争入札参加資格審査(定期受付) | 東京都
チェックリストは「環境、人権、労働及び経済の各分野での望ましい慣行を実施しているかどうか」つまり「調達指針を遵守しているかどうか」をチェックするものです。入札参加の可否に大きく影響します。
定期受付のスケジュールに余裕がない
令和7・8年度(2025年度・2026年度)東京都競争入札参加資格審査 定期受付のスケジュールは、次の通りです。
物品買入れ等
種別 | 受付開始 | 受付終了 |
一般(法人・個人) | 2024/09/17 | 2024/11/01 |
事業協同組合等 | 2024/12/16 | 2024/12/20 |
建設工事等
種別 | 受付開始 | 受付終了 |
建設工事等 | 2024年11月下旬開始予定 | 終了期日は未定 |
物品買い入れ等にしても、建設工事にしても、定期受付の日程的に余裕があるとは言えません。
チェックリストの作成は急がねばなりません。
入札参加には、義務的事項全てに取り組むことが必要
適用対象の公共調達の入札に参加するには、チェックリストにおける義務的事項の全てに取り組んでいることが必要です。
チェックリストの入力内容は、入札参加資格の審査には影響しませんが、「義務的事項」について「取り組んでいない」が選択されている場合は、今後、調達指針が適用される案件に参加することができませんので、ご注意ください。
東京都社会的責任調達指針【解説版】
チェックリストの義務的事項に取り組んでいないと、大変なことになります。
チェックリスト対策のカギは、書類による裏付け
このように、東京都の公共調達に入札したければ、チェックリスト対策をしっかりと行う必要があります。
チェックリスト対策の肝は「書類による裏付け」です。
義務的事項への取り組みは、書類で裏付けよ
東京都社会的責任調達指針【解説版】 によると、「チェックリストの義務的事項に取り組んでいる」と判断されるための方法は、それぞれの義務的事項ごとに複数存在します。
複数の方法の中で狙うべきは、書類による裏付けです。書類による裏付けには次の利点があります。
- 期限まで余裕がない中、比較的短時間で、義務的事項に取り組んでいる状態に持っていけます
- 義務的事項に取り組んでいる証拠を残せます
- 今後、調達指針の社内浸透を図る際にも、書類による裏付け・明文化が有効です。
適切な書類を作成して、自社が義務的事項に取り組んでいる状態を作り出すべきです。
会社方針や行動規範の作成だけで、十分に裏付けることが出来るケースが多い
チェックリストの義務的事項の一つ一つについて、「自社の方針や行動規範の作成によって、その義務的事項に取り組んでいることを裏付けられるかどうか」を、YES/NOで答えると次のようになります。
義務的 事項 | 方針や行動規範で 裏付けは可能? |
---|---|
1.1 | YES |
1.3 | YES (周知・啓発の証拠も必要) |
1.4 | YES |
2.9 | NO 法令遵守の証拠 |
2.10 | NO 調達方針を策定 |
2.11 | NO 体制整備書面 |
3.1 | YES |
3.2 | YES |
3.3 | YES |
3.5 | NO ハラスメント相談窓口設置 |
義務的 事項 | 方針や行動規範で 裏付けは可能? |
---|---|
4.1 | YES |
4.2 | YES |
4.3 | YES |
4.4 | YES |
4.5 | YES |
4.6 | YES |
4.7 | YES |
4.8 | YES |
4.9 | NO |
4.10 | YES |
5.1 | YES |
5.2 | YES |
5.3 | YES |
5.4 | YES |
5.5 | YES |
5.6 | YES |
5.7 | YES |
以上のように、「方針や行動規範」さえ作っておけば、義務的事項への取り組みを裏付けられるケースが多いです。
推奨的事項への取り組みも、書類で裏付けよ
また、調達指針には推奨的事項もあります。チェックリストにも推奨的事項に関する部分があります。推奨的事項は、義務的事項と異なり、取り組まなくても都の公共調達への入札参加に支障はありません。
ただし「それなら推奨事項なんて無視すればいい」というわけにはいきません。推奨的事項に取り組むと、入札において何らかの優遇措置(インセンティブ)が受けられるからです。
詳細はまだ決まっていませんが、推奨的事項に取り組まない場合、落札の可能性は低くなってしまいそうです。
推奨的事項にも可能な限り対応するべきです。
会社方針や行動規範だけでは、十分に裏付けられないケースが多い
チェックリストの推奨的事項の一つ一つについて、「自社の方針や行動規範の作成によって、その義務的事項に取り組んでいることを裏付けられるかどうか」を、YES/NOで答えると次のようになります。
推奨的 事項 | 方針や行動規範で、 裏付けは可能? |
---|---|
1.2 | YES |
2.1 | NO 目標設定 |
2.2 | NO 計画策定 |
2.3 | NO 実績の記録 |
2.4 | NO 計画策定 |
2.5 | NO 目標設定 |
2.6 | YES(しかし難) 目標設定 |
2.7 | YES(しかし難) 目標設定 |
2.8 | YES |
2.9 | NO 目標設定 |
2.10 | NO 目標設定 |
2.11 | YES |
2.12 | YES |
推奨的 事項 | 方針や行動規範で 裏付けは可能? |
---|---|
3.4 | NO 計画策定 |
3.5 | NO 目標設定 |
3.6 | YES |
3.7 | YES |
4.2 | NO 制度に関する規定 |
4.6 | YES |
4.7 | YES |
4.8 | NO 制度に関する規定 |
4.9 | NO 目標設定 |
4.11 | NO 事業内職業能力開発計画 |
4.12 | YES |
5.2 | NO 制度に関する規定 |
5.5 | YES |
5.6 | NO システムに関する説明・規定 |
5.8 | YES |
推奨的事項に取り組んでいることを裏付ける場合、会社方針や行動規範の作成だけでは不十分なケースが多そうです。
「東京都社会的責任調達指針に関するチェックリスト」への対応はお任せください
ここまで、令和7・8年度東京都競争入札参加資格審査の定期受付において提出が求められる「東京都社会的責任調達指針に関するチェックリスト」への対応について書きました。
日程的に余裕があまりありませんので、急ぐ必要がありますが、チェックリストへの対応は必須です。
書類作成その他、「東京都社会的責任調達指針に関するチェックリスト」への対応は、ぜひ当事務所にお任せください。