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避難経路図作成のポイント

「うちの工場に掲示してある避難経路図、これで本当に大丈夫だろうか?」

「そもそも、避難経路図の作成は法律で定められた義務なのだろうか?」

工場の安全衛生管理を担当される中で、このような疑問をお持ちになったことはありませんか?

避難経路図は、万が一の火災や緊急事態に従業員の命を守るために不可欠なものです。そして、それは単なる努力目標ではなく、企業の法的責任にも関わる重要なテーマです。

この記事では、工場の避難経路図に関する法的根拠から、記載すべき内容、担当者が注意すべきポイントまでを、企業の視点から分かりやすく解説します。

避難経路図の作成は、実質的に、「消防法」に基づく企業の責務です

まず押さえておきたいのは、避難経路図の作成・掲示義務の主な根拠が「消防法」および各市町村の「火災予防条例」にあるという点です。

「労働安全衛生法(安衛法)では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、安衛法が主に定めているのは日常業務における安全な「通路」の確保です。一方で、火災など非日常の緊急事態からの避難については、消防法がそのルールを定めています。

「消防計画」との重要な関係性

消防法では、一定規模以上の工場や事業場に対し、防火管理者を選任し、「消防計画」を作成して所轄の消防署へ届け出ることを義務付けています。

この「消防計画」とは、火災が起きた際の具体的な対応マニュアルのようなものです。その中には、消火活動や通報連絡と並んで、「避難誘導」に関する計画を盛り込まなければなりません。

避難経路図は、この「避難誘導」計画を全従業員に周知し、”絵に描いた餅”で終わらせないための具体的なツールなのです。つまり、消防計画の作成義務を適切に果たすために、避難経路図の作成・掲示が実質的に必須となります。

避難経路図作成が義務となる条件

では、すべての工場で作成義務があるのでしょうか?

答えは「No」です。義務の対象となるかは、工場の規模(延床面積、収容人数など)や業種によって異なります。

この基準は、消防法および事業所が所在する市町村の条例で定められています。

自社が対象かどうかを正確に把握するためには、管轄の消防署(予防課など)に直接問い合わせるのが最も確実で安心な方法です。

これだけは押さえたい!避難経路図に記載すべき必須項目

法令等で求められる避難経路図には、以下の項目を分かりやすく記載する必要があります。

担当者の方は、自社の避難経路図がこれらの要素を満たしているか、チェックリストとしてご活用ください。

  1. 現在地(YOU ARE HERE)図を見る人が、瞬時に自分の位置を把握できるための最も重要な表示です。
  2. 避難経路現在地から屋外の安全な場所へ至るルートを、太い矢印などで明確に示します。主経路と、それが使えない場合の副経路の「2方向以上」を示すのが原則です。
  3. 非常口・避難口屋外へ脱出できる出口を、緑色の誘導灯マークなどで誰が見ても分かるように表示します。
  4. 消火設備の場所消火器、屋内消火栓、火災報知機などの初期消火に必要な設備の位置を記号で示します。
  5. 建物の簡易な平面図部屋の配置や廊下、階段の位置関係が分かる、シンプルな平面図を記載します。
  6. 避難上の注意書き「エレベーターは使用しない」「防火シャッターが降下する箇所に注意」など、パニック時にも冷静な行動を促すための注意事項を簡潔に記載します。

避難経路図の設置場所

作成した避難経路図は、廊下や階段の踊り場、休憩室、作業場など、従業員が日常的に目にし、立ち止まって確認できる場所に掲示することが求められます。

倉庫の奥など、普段人が見ない場所に掲示していても意味がありません。

知らなかったでは済まない!罰則と企業責任リスク

もし、消防計画の作成・届出を怠った場合、消防法に基づき30万円以下の罰金または拘留が科される可能性があります。避難経路図の不備は、この消防計画の不備と見なされるリスクをはらんでいます。

しかし、より深刻なのは、災害発生時の企業の安全配慮義務違反が問われるケースです。避難経路図の不備が原因で従業員の避難が遅れ、死傷者が出てしまった場合、企業は厳しい法的・社会的責任を追及される可能性があります。罰則の有無以上に、この経営リスクを重く受け止める必要があります。

従業員の命を守る「生きた」ツール

工場の避難経路図は、法令で定められているから作成するという形式的なものではありません。緊急時に従業員一人ひとりの命を守り、企業の存続にも関わる「生きた安全対策ツール」です。

法令上の義務の有無にかかわらず、この機会に自社の避難経路図が本当に分かりやすく、機能するものになっているかを見直してみてはいかがでしょうか。

そして、定期的な避難訓練を通じて、その内容を全従業員に周知徹底させていくことが、真の安全管理と言えるでしょう。

少しでも疑問や不安な点があれば、迷わず管轄の消防署に相談しましょう。