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三重県の人口減少対策への提言-「持続可能な公共調達」等による「ビジネスと人権」推進を宣言するべき

【提言】「持続可能な公共調達」等による「ビジネスと人権」推進を宣言し、「本気」で取り組むことを効果的にPRすべき

「ビジネスと人権」ついて、全国社会保険労務士会連合会で複数の役職を拝命しており、この4月には、三重県経営者協会で「ビジネスと人権」に関する講演の機会もいただきました

今回は、組織の一員としてではなく一県民として、三重県に対して提言をさせていただきます。

エグゼクティブサマリー

【提言】「持続可能な公共調達」等による「ビジネスと人権」推進を宣言し、「本気」で取り組むことを効果的にPRすべき

1. 人口減少対策と関係なく「ビジネスと人権」には取り組まねばならない。それなら先行者優位を狙うべきだから

2. 人口減少対策のカギである「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」に、「ビジネスと人権」が効果的だから

3. 人口減少対策のカギである「規模の大きな会社作り」に、「ビジネスと人権」が有効だから。

4. 人口減少対策のカギである「若年層(特に女性)が就職を希望する業種・職種づくり」に、「ビジネスと人権」が有効だから。

5.「本気」の取り組みと「本気」の効果的PRで、ILO等専門家の力を借りやすくなるから

「ビジネスと人権」は、 国連で採択された人権尊重の国際的枠組みであり、日本政府を挙げての国策でもあります。人口減少対策と関係なく、「ビジネスと人権」には取り組まなければなりません。

どうせやらねばならないなら、他県に先じて取り組むことで、人口減少対策上の先行者優位を獲得するのが得策です。

世間の目がまだそこまで世知辛くないうちに取り組めば、少々の失敗では辛辣な批判を受けることはほぼありません。チャレンジしやすいです。「ビジネスと人権」に早く取り組むほど、乗り越えるべきハードルは低いんです。これも先行者優位と言えます。

取り組みが遅くなると、人口減少対策上のメリットは小さくなりますし、世間が世知辛くなるので色々とやりにくくなります。

「ビジネスと人権」も、思い立ったが吉日です。

人口減少対策に関して県庁が作成した次の書面を見ると…

人口減少対策のカギは、働きやすい(働きたい)職場環境づくりです。

  • 長期的なカギは、若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり
  • 短期的なカギは、外国人が働きやすい(働きたい)職場環境づくり

働きやすい(働きたい)職場環境づくりに、「ビジネスと人権」は非常に有効です。

なぜなら、「ビジネスと人権」は、単なる国内法遵守より、尊重すべき人権の定義が広く、企業の責任範囲も広いからです。

「ビジネスと人権」では、取引関係で繋がる他社が引き起こした人権侵害についても、企業は一定の責任を持たなければなりません。

さらに、 「ビジネスと人権」は、「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」のPRにも効きます。「ビジネスと人権」は、各企業に、人権尊重の情報公開を義務付ける仕組みがあるからです。

このように、人口減少対策上、 「ビジネスと人権」はぜひとも推進すべきものです。

そして、「ビジネスと人権」の推進には「持続可能な公共調達」が有用です。

日本政府の「ビジネスと人権」に関する行動計画も、SDGs も、「ビジネスと人権に関する指導原則」も、 ILO(国際労働機関)も、「持続可能な公共調達」を導入するべきとの主張をしています。

すでに東京都は、「ビジネスと人権」推進のための公共調達の仕組みを整えつつあります。

三重県は、人口減少対策上、この点で東京に遅れを取るわけにはいきません。

三重県も、急いで「持続可能な公共調達」の仕組みを整え、「ビジネスと人権」を推進すべきです。

三重県出身の学生の就職に関するアンケート結果(令和4年11月~令和5年1月三重県調) によると、三重県の就職先を選ばなかった理由 (複数回答可)は次のようになっています。

  1. 規模の大きな企業に就職したかったから 18.8%
  2. 希望する業種・職種の仕事がなかったから 17.7%
  3. 都会で仕事をしたかったから 15.1%

学生の還流には、規模の大きな会社の増加が必要なのです。

規模の大きな会社は、従業員数が多い会社を指すこともありますが、ここでは企業価値(時価総額)が大きい会社を指すものとして話をすすめます。

現代では、企業価値(時価総額)の大半は無形資産で決まります。そしてその無形資産は人が作りだします。

会社の規模の拡大すなわち企業価値(時価総額)向上には、人的資本の充実すなわち採用定着育成の適切な実施が必要なのです。

採用定着育成を適切に行うには、言うまでもなく、職場における従業員の人権尊重が欠かせません。この部分に「ビジネスと人権」が有効です。

人権尊重(特に女性の人権の尊重)によって企業価値が向上することは、データによっても裏付けられつつあるので、企業による人権尊重への取り組み(特に女性活躍など)は投資家から非常に重視されています。

したがって、大企業の大半は人権尊重に取り組んでいます。その手段として、いずれにしろ取り組まねばならない「ビジネスと人権」が使われています。

しかし、三重県内の企業では「ビジネスと人権」への取り組みが遅れてます。 公共調達を利用するなどして、三重県庁が各企業に「ビジネスと人権」推進を促すべきです。

三重県出身の学生の就職に関するアンケート結果(令和4年11月~令和5年1月三重県調) によると

  1. 規模の大きな企業に就職したかったから 18.8%
  2. 希望する業種・職種の仕事がなかったから 17.7%
  3. 都会で仕事をしたかったから 15.1%

人口減少対策のために若年層を県内へ還流させるカギとして、「若年層(特に女性)が就職を希望する業種・職種づくり」も重要です。この点についても、「ビジネスと人権」の推進が、非常に役立ちます。

海外でも国内でも、「ビジネスと人権」などサステナビリティを担当する部門では、実際に女性が大活躍しています。

また、 そもそも女性は、男性よりサステナビリティに対する関心が高いです。実際、「ビジネスと人権」などサステナビリティに関するイベントに行くと、女性がかなり目立ちます。

つまり、サステナビリティ関連職は、女性からの関心も女性が活躍する可能性もともに高く、「女性が就職を希望する業種・職種」として有望なのです。

「持続的な公共調達」によって「ビジネスと人権」を推進すると、公共調達への入札を検討する企業では、「ビジネスと人権」に対応できるサステナビリティ関連職が必要となります。大企業においては、環境を含めてサステナビリティを担当する専門部署が出来ることもありうるでしょう。

「持続的な公共調達」による「ビジネスと人権」推進は、サステナビリティ関連職への求人需要を作り出し、「女性が就職を希望する業種・職種づくり」に貢献する可能性が高いのです。

三重県庁は、人口減少対策として「ビジネスと人権」を他県に先駆けて推進するべきですが、その場合は先行者をお手本にすることはできません。

そこで、「ビジネスと人権」の専門家の力を借りる必要が出て来ます。

専門家の中でも、ILOは「本気」の人に特に協力的です。また、中央省庁のなかでは、経済産業省、外務省、法務省が「ビジネスと人権」の推進に熱心で「本気」の人に協力的です。

専門家から協力してもらうには、「ビジネスと人権」の推進に「本気」で取り組む姿勢を見せることが大事です。「本気」で取り組み、その姿勢のPR、という2本柱です。それぞれしっかりやる必要があります。

専門家から「本気」の取り組みだと感じてもらうには、「人権を尊重する企業の責任」の理解と履行、「人権を保護する国家の義務」の理解と国への協力、および 東京を上回る「持続可能な公共調達」方針の作成などは確実に実施する必要があります。

専門家へのPRとしては、専門家と接点を作り、上記取り組み内容へのコミットメントを伝え、困っていることへの助力を求める必要があります。

以上で、エグゼクティブサマリーは終わり
ここから本編です。

【提言】「持続可能な公共調達」等による「ビジネスと人権」推進を宣言し、「本気」で取り組むことを効果的にPRすべき

目次

【提言の理由①】人口減少対策と関係なく「ビジネスと人権」には取り組まねばならない。それなら先行者優位を狙うべきだから

人口減少対策と関係なく、三重県庁は「ビジネスと人権」にいずれは取り組まなければなりません。

問題はいつ取り組むかということですが、どうせやらねばならないのですから、早く取り組み始めることにリスクはほとんどありません。

むしろ、早く取り組み始めることで、後述するように人口減少対策上の大きなメリットが見込めます。

「ビジネスと人権」は、国連で採択された人権尊重の国際的枠組み

「ビジネスと人権」は人権尊重のグローバルスタンダードです。

この枠組みは、2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」で規定されています。

外務省パンフレットビジネスと人権とは?

「ビジネスと人権」は、ILO(国際労働機関)も熱心に推進

また、後述するように、「ビジネスと人権」の枠組みで尊重すべき「国際的に認められた人権」の中には、ILOが掲げる中核的労働基準が含まれています。

そのため、ILOも「ビジネスと人権」の推進には非常に熱心です。

そして、ILOと提携している全国社会保険労務士会連合会も、「ビジネスと人権」の推進に非常に熱心です。

そして、私は全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」部会委員を務めていて、「ビジネスと人権」を熱心に推進しています。

「ビジネスと人権」は、日本政府を挙げての国策

上記のような国際的潮流を受けて、日本政府も国を挙げて「ビジネスと人権」に取り組み始めました。

日本政府は2020 年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(以下、NAP)」を策定・公表しました。

NAPの「行動計画の基本的な考え方」では、地方公共団体の「ビジネスと人権」への取り組みに対する期待が明記されています。

  1. 政府、政府関連機関及び地方公共団体等の「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上
  2. 企業の「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上
  3. 社会全体の人権に関する理解促進と意識向上
  4. サプライチェーンにおける人権尊重を促進する仕組みの整備
  5. 救済メカニズムの整備及び改善

三重県庁のような地方公共団体は、事業者すなわち企業としての側面もありますから、上記1~5のすべてについて積極的に取り組むことが期待されています。

また、2022年9月、日本政府は、経済産業省が中心となって、責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドラインを策定しました。

日本政府は、このような状況を踏まえ、国際スタンダードを踏まえた企業による人権尊重の取組をさらに促進すべく、2022 年 3 月、経済産業省において「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を設置して検討を重ね、この度、本ガイドラインの策定・公表に至った。
本ガイドラインは、ビジネスと人権に関する指導原則、OECD 多国籍企業行動指針及び ILO 多国籍企業宣言をはじめとする国際スタンダードを踏まえ、企業に求められる人権尊重の取組について、日本で事業活動を行う企業の実態に即して、具体的かつわかりやすく解説し、企業の理解の深化を助け、その取組を促進することを目的として策定したものである。国際スタンダードのより深い理解のためには、本ガイドラインが基礎とする国連指導原則、OECD 多国籍企業行動指針及び ILO 多国籍企業宣言を参照することが適当である。

なお、国際スタンダードの今後の発展等に応じて、本ガイドラインも見直していくこととする。
本ガイドラインの策定に併せて、主に企業の実務担当者に対して、人権尊重の取組の内容をより具体的かつ実務的な形で示すための資料を経済産業省が作成・公表することを予定しており、本ガイドラインと併せて参照されたい。

責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン

国がこのようなガイドラインを作った以上、三重県庁は、事業者として、「ビジネスと人権」を理解し取り組みを促進すべきです。

さらに、2023年4月、日本政府は、経済産業省が中心となって、責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料 を策定しました。

日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では、経済産業省において、人権尊重の取組内容をより具体的かつ実務的な形で示すための資料を作成することとしており、今般、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」として作成・公表しました。
本資料は、ガイドラインに沿って取組を行う企業がまず検討する、「人権方針の策定」や、「人権への負の影響(人権侵害リスク)の特定・評価」について詳細な解説や事例を掲載しています。具体的には、人権方針に記載する項目の例及びその解説や、サプライチェーン上のどこに高いリスクがあるかを洗い出すステップの解説及びそのための参考資料を提供しています。

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました

日本政府は、企業が「ビジネスと人権」に取り組む際に必要な参考資料を、これでもかというレベルで十分に準備しています。

すでに、政府としては「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上を一通り行ったと言えます。

三重県をはじめとした地方公共団体は、「ビジネスと人権」に取り組まないことについて、言い訳が許されない状況にあります。

後述しますが、すでに東京都は「ビジネスと人権」に取り組み始めました。

三重県も、後れを取るべきではありません。

どうせやらねばならないなら、他県に先じて取り組むことで、人口減少対策上のメリットを享受すべし

「ビジネスと人権」は、取り組まなければならないものですが、実際に他に先駆けて取り組み始めれば、人口減少対策などでメリットを享受することが出来ます。これが先行者優位です。

また、世間の目がまだそこまで世知辛くないうちに取り組めば、少々の失敗では辛辣な批判を受けることはほぼありませんから、チャレンジしやすくなります。「ビジネスと人権」に早く取り組むほど、乗り越えるべきハードルは低いんです。これも先行者優位と言えます。

取り組みが遅くなると、人口減少対策上のメリットは小さくなりますし、世間が世知辛くなるので色々とやりにくくなります。

「ビジネスと人権」も、思い立ったが吉日です。

【提言の理由②】人口減少対策のカギである「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」に、「ビジネスと人権」が効果的だから

人口減少対策のカギは、働きやすい(働きたい)職場環境づくりです。

  • 長期的なカギは、若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり
  • 短期的なカギは、外国人が働きやすい(働きたい)職場環境づくり

それぞれ説明します。

人口減少対策のカギは、長期的には「若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」

人口減少対策に関して三重県庁が作成した次の書面を見ると…

衝撃的なことが書かれています。

つまり、三重県の転出超過数の約半分は、15歳~29歳の女性が占めているわけです。

人口減少対策の要点は、若年層(特に女性)の人口流出を抑制する一方、いったん流出した若年層(特に女性)が三重県に還流するようにすることです。これは誰が見ても明らかでしょう。

そのための課題として、次のような課題が挙げられています。

  • ジェンダーギャップの解消
  • 仕事と子育てを両立できる職場環境
  • 自然減対策・社会減対策の両輪において働く場の取組は非常に重要
  • 若者はもとよりすべての方が自己の能力や適性に応じてその能力を最大限発揮でき、誰もが働き続けることができる、これまで以上に柔軟性のある多様な働き方を可能とする社会の実現に向けて、産学官が連携し取り組んでいく必要があります。
  • 労働条件や職場環境の改善を一層推進することや、地域が求める人材や地域に定着する人材を育成することにより、若者の県内定着や人口還流を促進することが求められています。
  • 労働力不足が深刻化する中、人材の確保は企業等の持続的発展に向けての喫緊の課題

これらの課題を、一言でまとめると次のようになるはずです。

人口減少対策には、他の都道府県との若年層(特に女性)の奪い合いという側面があるのは否定できないわけです。

なんとか、「若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」を急いで推進したいところです。

人口減少対策のカギは、短期的には「外国人が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」

「若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」が、若年層(特に女性)の三重県内への定着や還流として効果を発揮するまでには時間がかかります。

短期的には、若年層の社会減を抑制して、労働力不足を解決するのはなかなか難しいです。

当面の間、別の方法で、労働力の確保を図らなければなりません。

そこで、重要になって来るのが、外国人労働者の活用です。

日本の総人口の長期的推移

総務省資料より

外国人労働者の多くを占めるのは技能実習生ですが、そう遠くない将来に技能実習制度は廃止されます。

代わって導入される外国人育成就労制度では、技能実習制度と比べて、転職制限が大幅に緩和されます。

これにより、日本国内の地域間で、外国人労働者の奪い合いが激化します。

それだけでなく、外国人労働者は、先進国同士で激しい奪い合いになってきています。

世界の高齢化率の推移 

資料:UN, World Population Prospects:The 2019 Revision
ただし日本は、2020年までは総務省「国勢調査」、2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果による。(令和4年版高齢社会白書

先進国はいずれも、これから少子高齢化による人手不足に直面するので、外国人労働者の確保に力を入れるようになります。

また、日本をはじめとした先進国にこれまで多くの外国人労働者を供給してきたアジア諸国でも、少子高齢化が進みます。

世界規模で見て、外国人労働者への需要が激増する一方、外国人労働者の供給は激減するんです。

行きつく先は、国際的な外国人労働者獲得競争の激化です。

外国人労働者は日本国内にふるさとがないケースが多いです。故郷に対して愛着などの感情を多かれ少なかれ持っている日本人よりも、外国人労働者は、職場や居住地域についてドライな選択を行います。ドライな選択というのは、客観的な条件比較に重きを置き、好みなどの主観があまり入り込まない選択を指します。

若年層の奪い合いよりも、外国人労働者の奪い合いの方が、激しくなるはずです。

奪い合いに打ち勝つには、「外国人が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」が必須です。

三重県庁でも、今年度は「外国人介護人材受入支援事業」の実施を予定するなど、外国人労働力の確保についても危機感を抱いておられることと思います。

「外国人が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」を進めるためにも、「ビジネスと人権」の推進に今すぐ取り掛かるべきです。

「ビジネスと人権」の推進は「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」に効く

「ビジネスと人権」で国家が保護し企業が尊重すべき「国際的に認められた人権」は、日本国内の労働法でも遵守が要請されるものばかりです。

しかし、「国際的に認められた人権」の一つ一つの定義は、国内法における人権の定義よりも広くなっています。

また、「ビジネスと人権」では、人権侵害の責任を負う範囲も広いです。

自社と取引関係で繋がる企業が人権侵害を引き起こすと、自社にも何らかの責任が降りかかることになります。

ビジネスと人権国内法遵守
尊重すべき人権の定義・範囲とても広い比較的狭い
人権侵害の責任を負う範囲自社・取引関係で繋がる企業
(サプライチェーン全体)
(バリューチェーン全体)
自社のみ

結局、単に国内法を遵守するよりも、「ビジネスと人権」を推進した方が、職場における人権尊重がより徹底されて「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」への近道になるわけです。

「ビジネスと人権」で国家が保護し企業が尊重すべき「国際的に認められた人権」は、日本国内の労働法でも遵守が要請されるものばかりです。

多くの人にとって、全く新しいものではなく、なじみがあるはずです。

  1. ILO(国際労働機関)中核的労働基準
  2. 国際人権章典
    • 世界人権宣言
    • 国際人権規約
      • 社会権規約
      • 自由権規約

ただ、「国際的に認められた人権」における一つ一つの人権の定義は、国内法における人権の定義より広いです。

そのため、「ビジネスと人権」を推進すると、単に国内法を遵守するのと比べて、「外国人や若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」がより一層促進されることになります。

また、「ビジネスと人権」では、人権侵害の責任を負う範囲も広いです。

自社と取引関係で繋がる企業が人権侵害を引き起こすと、自社にも何らかの責任が降りかかることになります。

「ビジネスと人権」では、各企業は、取引先が引き起こした人権侵害にも責任を持たなければならないということです。

国内法では、企業にそこまでの責任を持たせることはありません。

単に国内法のコンプライアンスを徹底するよりも、「ビジネスと人権」を推進した方が、人権尊重が徹底され、「外国人や若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」がはかどることになります。

「ビジネスと人権」の推進は「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」のPRにも効く

人口減少対策として、「若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」は重要ですが、それで終わってはダメです。

若年層(特に女性)の還流を通じて人口減少の抑制につなげるためには、「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」について、県内各企業が若年層(特に女性)に対して効果的にPRしないといけません。

また、外国人労働者の奪い合いに負けないためには、「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」について、県内各企業が外国人労働者・送り出し機関等に対して効果的にPRしないといけません。外国人労働者間での情報交換、口コミの効果をよくよく考慮してPRしないといけません。

各企業個別の「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」については、PRの主役は、三重県庁ではなく各企業です。三重県庁は、各企業が適切にPRするように後押しするのが仕事です。

「ビジネスと人権」は、各企業に「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」についてPRさせる観点でも、優れた枠組みです。

「ビジネスと人権」では、企業に対して、人権尊重に関する実効性評価とその情報公開を、定期的に(できれば1年に一度)実行するよう義務付けるからです。

実効性評価は定量的または定性的なKPIを使って行うことになっており、人権尊重に真摯に取り組んで成果を出せば、客観的なデータに基づくアピールが可能です。

「ビジネスと人権」をうまく活用しながら、若年層(特に女性)の目線で若年層(特に女性)に届くように効果的に情報公開を行うよう、県庁が県内各企業を導かなければなりません。

「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」には、規模を問わず、すべての企業が取り組むべきです。

しかし、若年層の人口還流の観点からは、県内の大企業にこそ「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」を頑張ってもらう必要があります。

なぜなら、三重県人口減少対策アクションプラン(令和6(2024)年度版)によると、三重県の就職先を選ばなかった理由は以下の通りだからです。

  1. 規模の大きな企業に就職したかった 18.8%
  2. 希望する業種・職種の仕事がなかった 17.7%
  3. 都会で仕事をしたかったから 15.1%

そうなると、若年層の希望就職先の候補に残りやすい規模の大きな企業にこそ、「働きやすい(働きたい)職場環境づくり」とそのPRを頑張ってもらわねがなりません。そうすることが、三重県内への若年層の人口還流に効果的です。

「持続可能な公共調達」で「ビジネスと人権」の推進を加速するべき

「ビジネスと人権」は、人口減少対策のカギである「外国人や若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」を推進し、効果的なPRを行っていく手段として優れています。

三重県庁は、地方公共団体として、企業が「ビジネスと人権」に積極的に取り組むような仕組み作りをしなければなりません。

その仕組みの一つとして、「ビジネスと人権」の遵守を掲げる「持続可能な公共調達」を通じて企業の「ビジネスと人権」への取り組みを推進することを提案します。

日本政府も「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)」で「公共調達における「ビジネスと人権」関連の調達ルールの徹底」を掲げています。

(今後行っていく具体的な措置)
苦情処理手続を含めた「ビジネスと人権」に関連し得る調達ルールの徹底(障害者優先調達推進法に基づく取組、女性活躍推進法第24条に基づく公共調達に関する取組、暴力団排除に関する取組)

持続可能な公共調達推進に関する第二次提言~バリューチェーンにおける責任ある企業行動・労働慣行の促進に向けて~ | International Labour Organization

SDGsも、「公共調達における「ビジネスと人権」関連の調達ルールの徹底」を掲げています。

ゴール 12 持続可能な⽣産消費形態を確保する
ターゲット 12.7 国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣⾏を促進する。

持続可能な開発のための 2030 アジェンダ

「ビジネスと人権に関する指導原則」でも、公共調達は、企業による人権尊重を推進するための絶好の機会とされています。

5.国家は、人権の享受に影響を及ぼす可能性のあるサービスを提供する企業と契約を結ぶか、あるいはそのための法を制定している場合、国際人権法上の義務を果たすために、しかるべき監督をすべきである。

解説

国家は、人権の享受に影響するサービスを民営化する場合、その国際人権法上の義務を放棄するわけではない。そのようなサービス業務を行う企業が国家の人権義務に合致した方法で活動することを国家が確保できない場合、国家自体の評判にもまた法的にも望ましくない結果をもたらすことになる。必要な措置として、サービス契約またはサービス提供を定める法令において、これらの企業が人権を尊重するとの国家の期待を明確にすべきである。国家は、しかるべき独立した監視及び説明責任制度を設けることを含む、実効的に企業活動を監督できることを確保すべきである。

6.国家は、国家が商取引をする相手企業による人権の尊重を促進すべきである。

解説

国家は、少なからずその調達活動などを通じて、企業とさまざまな商取引を行っている。それは、国家にとって、個別でも国の集まりとしても、国内法・国際法上の国家の関連した義務を考慮に入れながら、契約条件などを通して企業の人権についての意識向上や人権に対する尊重を推進する絶好の機会となっている。

ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31) | 国連広報センター

「ビジネスと人権」において国家が保護し企業が尊重する「国際的に認められた人権」の中に、ILO中核的労働基準が含まれています。

ILOは、「ビジネスと人権」においては、「国際的に認められた人権」の一部を規定するルールメーカーなんです。オーソリティーです。

そのILOも、「持続可能な公共調達推進に関する第二次提言~バリューチェーンにおける責任ある企業行動・労働慣行の促進に向けて〜」にて、「持続可能な公共調達」を「ビジネスと人権」の推進に利用するよう強く主張しています。

本提言は、上述した国内外の動向やニーズを踏まえ、以下の 4 つの提言を行う(図表 1参照)。

提言1:持続可能な社会の実現に向けた公共調達(SPP)の推進
提言2:企業行動が人権や経済的社会的進展にもたらす「正」「負」の影響を考慮した「人権尊重調達枠組」の策定
提言3:政府による「苦情処理メカニズム」の提供
提言4:SPP 推進のための能力開発と体制整備、国民の権利意識の醸成

持続可能な公共調達推進に関する第二次提言~バリューチェーンにおける責任ある企業行動・労働慣行の促進に向けて〜

すでに東京都は、「ビジネスと人権」推進のための公共調達の仕組みを整えています。

前述したように、三重県からの転出超過数において、女性が男性を大きく上回る状況にあります。

三重県から転出した女性の多くを、東京をはじめとした大都市圏が、ブラックホールのように奪い取っていきます。

実は、その東京都が既に、「持続可能な公共調達」を行うべく「東京都社会的責任調達指針(素案)」を完成させました。

現在は、パブリックコメントの募集も終了し、指針の完成を待つのみです。

三重県の人口減少対策上、東京をはじめとしたブラックホールに負けないようにするという観点は絶対に必要です。

札束での殴り合い(お金)や、都会化の程度(インフラ)など、物理的資産の蓄積で負けるのは仕方ないかもしれません。

しかし、人口減少対策に関する知恵・知識・スピードだけでも東京に勝っていかないと、惨敗になってしまいます。

「ビジネスと人権」推進については、東京都が多くの資料を公開しているので、これらを使って大至急東京にキャッチアップしするべきではないでしょうか。そして、三重県は、可及的速やかに、東京都を追い抜くべきではないでしょうか・

【提言の理由③】人口減少対策のカギである「規模の大きな会社作り」に、「ビジネスと人権」が有効だから。

さて、先ほど述べたように、人口減少対策のカギの一つは、「若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」です。

先ほどまでは、「働きやすい(働きたい)職場づくり」を「人権が尊重される職場づくり」と解釈し、「ビジネスと人権」を推進すべきことを提案しました。

しかし、「若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり」には、人権尊重以外の観点からも光を当てる必要があります。

学生の還流には、規模の大きな会社の増加が必要

三重県出身の学生の就職に関するアンケート結果(令和4年11月~令和5年1月三重県調) によると

三重県の就職先を選ばなかった理由 (複数回答可)
1位 規模の大きな企業に就職したかったから 18.8%
2位 希望する業種・職種の仕事がなかったから 17.7%
3位 都会で仕事をしたかったから 15.1%

学生には「規模が大きい会社に就職したい」というニーズがあるわけです。

人口減少対策として学生の還流を促進するには、「若年層(特に女性)向けに、①規模の大きな企業を用意してあげる」という発想も必要です。

それには、県内の企業の規模を大きくする方策が不可欠です。

すでに上場しているような企業にも、さらに企業規模を大きくしてもらい、県内に規模の大きな企業を増やす施策が必要です。

その際「ビジネスと人権」が大いに役立ちます。

ところで、規模の大きな企業とはどんな会社でしょうか?

「規模が大きい会社= 企業価値(時価総額)の大きい会社」というのが、有力な解釈の一つかと思います。

そのように仮定すると、次のように言えます。

進学のために県外に出て行った学生を三重県に還流させるためには、県内企業の「企業価値(時価総額)」を大きくする必要があります。

また、県内の大学に進学した学生に一人でも多く三重県内で就職してもらうには、やはり県内企業の「企業価値(時価総額)」を大きくする必要があります。

では、企業の時価総額はどのように決まっているのでしょうか。

時価総額の大半は無形資産で決まる

企業の株式時価総額は、有形資産と無形資産の和として表すことが出来ます。

有形資産とは、物理的実態を持つ資産と金融資産を合わせたものです。多くの日本企業では、有形資産は(簿価)純資産と概ね等しくなります。

無形資産とは、物理的実体を持たない識別可能な非金銭的資産(国際会計基準審議会)または、金融資産以外の物理的実体を欠く資産(米国財務会計基準審議会)です。多くの日本企業では、無形資産は「帳簿に載らない資産」と言って差し支えありません。

実は、今、時価総額の9割は、帳簿に載らない無形資産で決まります。

言い換えれば、貸借対照表や損益計算書をはじめとした財務情報は、企業価値の1割程度しか説明していないのです。

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非財務情報可視化研究会の検討状況 (令和4年3月 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局 経済産業省経済産業政策局)にて、 OCEAN TOMO 「INTANGIBLE ASSET MARKET VALUE STUDY」(2020年)を基に作成されたものを転載

財務情報(有形資産に関する情報)よりも非財務情報(無形資産に関する情報)の方が、企業価値に大きな影響を与えるようになっているわけです。

無形資産は人が作る。企業価値(時価総額)向上には人的資本の充実が必須。

その重要な無形資産の具体例としては、次のようなものがあります。

  • ノウハウその他知的財産
  • ガバナンスやESG、SDGsへの取り組みなどの組織風土
  • ブランド、信用、その他外部との関係資産

これらのほとんどすべてを、従業員・役員などの人的資本が作り出します。

したがって、企業価値(時価総額)向上には、人的資本の充実が必要です。

このような状況の下で、投資家が人材投資(人的資本充実への投資)に注目するのは、自然な流れです。

有価証券報告書でも人的資本に関する情報開示が求められる流れとなっています。

一般社団法人生命保険協会「生命保険会社の資産運用を通じた『株式市場の活性化』と『持続可能な社会の実現』に向けた取組について」 (2021年4月公表) を基に、非財務情報可視化研究会の検討状況 (令和4年3月 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局 経済産業省経済産業政策局)が作成

人的資本の充実(=適切な採用定着育成)には人権尊重が不可欠

人的資本の充実とはすなわち、適切な採用定着育成のことです。

採用定着育成をいかに適切に行えているかが、企業価値に大きく影響するようになっているわけです。

採用定着育成を適切に行うには、従業員の人権を尊重する必要があります。

人権尊重は、企業価値(時価総額)を向上させるので、投資家から非常に重視されている

そういうわけで、投資家は人権尊重にも注目するようになっています。

独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の人的資産情報の『見える化』に関する研究」(2018年12月)を基に
非財務情報可視化研究会の検討状況 (令和4年3月 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局 経済産業省経済産業政策局)が作成

投資家が人権尊重にも注目するのは、必ずしも投資家が倫理的に行動するようになったからではありません。

人権を尊重する企業に投資した方が、投資家が儲かるからです。

もっと端的に言えば、

人権を尊重すれば、企業が儲かるからです。

採用定着育成・労働災害の防止・仕事と育児の両立などの人事労務の仕事を通じて人権尊重を高いレベルで達成していくと、企業価値が向上します。

このことは、データで裏付けられつつあります。

そのようなデータの一つが、日本企業の企業価値を向上させるESG指標TOP30 です。

1E循環型社会の実現原材料使用量
2S従業員の採用キャリア採用数(男性)
3S従業員の採用キャリア採用数(女性)
4S従業員の定着退職者数/離職者数(女性)
5S人材の登用新規管理職登用数
6S人材の育成総研修時間
7S知的財産の獲得・保護登録特許件数
8S労働災害の防止労働災害度数率
9E循環型社会の実現産業廃棄物排出量
10E循環型社会の実現リサイクル率
11S地域社会との関わり工場・ミュージアム・ショールームなどの見学来場者数
12E循環型社会の実現排水量
13S従業員の採用社員数
14E循環型社会の実現紙消費量
15S仕事と育児の両立子の看護休暇取得者数
16E気候変動への対策CO2排出量-スコープ2
17S仕事と育児の両立育児休職取得者数(女性)
18S仕事と育児の両立育児短時間勤務利用者数
19E循環型社会の実現グリーン調達率
20E大気汚染物質の排出削減NOx排出量
21E気候変動への対策CO2排出量原単位
22S従業員の定着退職者数/離職者数(男性)
23S従業員の採用女性採用比率
24S人材の育成海外トレーニー制度利用者数
25S人材の育成従業員一人あたり研修費用
26S人材の育成従業員一人あたり研修時間
27S労働災害の防止休業災害度数率
28G役員体制の強化社外監査役人数
29E気候変動への対策電気消費量
30S従業員の採用障がい者雇用率

30個の指標のうち19個がS。Eは10個だけです。企業価値向上には、環境への貢献であるEよりも、社会への貢献であるSの方が遥かに重要なんです。

そして、Sのほとんどが採用定着育成など人事労務の業務に関するものです。いずれの指標についても、改善には人権尊重が要求されます。

「ビジネスと人権」における実効性評価や情報公開にも、19個のSに関する指標をうまく利用すべきです。

そして、上の表では、19個あるSについて、男性よりも女性に対して大きく影響する指標を赤色に、女性より男性に対して大きく影響するものを青色に塗り分けました。

すると、青色より赤色の方が圧倒的に多いんですよね。ここから推定できるのは、女性に優しい会社は企業価値がより向上するということです。

だから、投資家は女性活躍にうるさいのです。

日本企業の企業価値を向上させるESG指標TOP30では「労働災害の防止」を赤色に塗っています。

これは、労働災害の防止による生産性の向上が、男性従業員よりも女性従業員の方により大きく顕著に現れるからです。

このことは、様々な研究によって、データで裏付けられています。

  • 暴言やセクハラの減少➡(特に女性の)生産性UP、収益性UP
  • 労働安全衛生の向上➡(特に女性監督者の)生産性UP
Human-centred approach to increasing workplace productivity (ILO)

日本企業の企業価値を向上させるESG指標TOP30では「仕事と育児の両立」に関係する3つの指標も赤色に塗っています。

これは結構 批判を受けます。

「仕事と育児の両立を赤色に塗るということは、育児を女性の仕事だと決めつけている証拠だ。育児は男女で共同参画するべきものだから赤色にも青色にも塗るべきではない」

というようなことを言われるんですね。

それはおっしゃる通りなんですが、現実には、男性よりも女性の方が育児に関する負担を沢山引き受けています。

その状況のもとで、仕事と育児の両立がしやすくなる制度や環境を整えると、より大きな恩恵を受けるのは男性ではなく女性になるわけです。したがって 仕事と育児の両立に関係する3つの指標は、桃色に塗っています。

だから、大企業の大半は「ビジネスと人権」に取り組み始めている

経団連  第3回 企業行動憲章に関するアンケート結果(2023)によれば、「ビジネスと人権」に取り組んでいる企業の割合を、従業員規模別に集計すると次のようになります。

中小企業での取り組み具合はイマイチですが…

経団連  第3回 企業行動憲章に関するアンケート結果(2023)より、従業員規模別、「ビジネスと人権」に取り組んでいる企業の割合

私は、4/15に三重県経営者協会で「ビジネスと人権」をテーマに講演する機会に恵まれました。その講演の冒頭に‥

「所属企業が、すでに 『 ビジネスと人権 』に取り組み始めているという方、手を上げてください。」と質問をしたら、手を上げた方は約50人中2人だけ

三重県の企業では、時価総額の増大に欠かせない「ビジネスと人権」への取り組みが、まだまだ進んでいません。

これでは、「規模の大きい会社に就職したい」という学生のニーズに応えられません。

「規模の大きい会社に就職したい」という学生のニーズに応え、学生等若年層の人口還流を促進するには、「ビジネスと人権」推進による企業価値(時価総額)向上が欠かせません。

三重県としては、県内企業、特に県内に本社を置く上場会社に対して、「ビジネスと人権」への取り組みを強く促すべきです。

人権尊重状況の開示については特に、力を入れてもらうべきです。

そのためにも、公共調達を利用するなどして、県内で「ビジネスと人権」を推進するべきです。

【提言の理由④】人口減少対策のカギである「若年層(特に女性)が就職を希望する業種・職種づくり」に、「ビジネスと人権」が有効だから。

三重県出身の学生の就職に関するアンケート結果(令和4年11月~令和5年1月三重県調) によると

三重県の就職先を選ばなかった理由 (複数回答可)
1位 規模の大きな企業に就職したかったから 18.8%
2位 希望する業種・職種の仕事がなかったから 17.7%
3位 都会で仕事をしたかったから 15.1%

人口減少対策、なかでも若者(特に女性)の還流については、若者(特に女性)が就職を希望する職種や業種を三重県内で発展させることも重要です。

「ビジネスと人権」をはじめとしたサステナビリティ関連職は、女性に人気の職種として有望です。是非とも県内で発展させるべきです。

サステナビリティ部門では実際に女性が大活躍している

日本でも世界でも、サステナビリティ部門での女性活躍は、他の部門より進んでいます。

コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂などを背景に、女性役員登用の動きが活発になっている。とはいえ、男性中心に作られた組織の枠組みにただ女性を加えただけでは、十分に力を発揮できない。今後の経営に不可欠である「新たな領域」で、女性をリーダーとして育てる取り組みが進んでいる。(中略)

実際、企業は今、SDGsやウェルビーイング(多様な人々の幸福)といった新しい経営課題に向き合っている。女性取締役などを企業に紹介するWaris(東京・千代田)でも、サステナブル(持続可能)分野などの人材の引き合いが強いという。田中美和共同代表は「これらの分野はCSR(企業の社会的責任)や広報担当など女性の多い領域から輩出されるケースが多く、女性にチャンスが開かれている」と話す。

SOMPOホールディングスは21年8月にサステナビリティ担当(CSuO)を設置し、下川亮子執行役が就任した。

SDGsやダイバーシティ…女性リーダー、新領域で輝け – 日本経済新聞

女性はリーダーや個人として、サステナビリティ課題の解決を推進する上でどういう役割を果たしているか――。この問いに対して、登壇者からは「女性の方が深く関与する準備ができている場合が多い」「気候危機やSDGsといった非常に複雑で、さまざまなステークホルダーの協力が求められる課題に取り組む場合には、女性は協調の精神で立ち向かい、異なるステークホルダーをまとめあげる傾向にある」といった意見がでてきた。

ジョンソン・エンド・ジョンソンで製品のレジリエンシー・サステナビリティ部門の責任者を務めるデュラン氏は、「女性はマルチタスクが得意な傾向にあり、効率的に仕事をする」と話し、150年の歴史をもつ同社では働く半数以上の従業員が女性であると説明した。女性が創設・運営する企業「WE Communications」のコンシューマー部門で責任者を務めるアダムス氏は「サステナビリティ部門は女性リーダーが過半数を占める、事業部門の中でも希少な存在だ」と指摘した。

サステナビリティ部門の女性リーダーは次世代の女性リーダーとどう連携すべきか | サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan

男性より女性の方が、「ビジネスと人権」などサステナビリティに関心がある

また、女性の方が男性よりも、サステナビリティに関心をもっています。

そのようなデータの裏付けがあるわけではありませんが、自分の個人的体験と風聞によって、そのことは確信することが出来ます。

例えば、社会保険労務士限定で「ビジネスと人権」に関する研修の参加者を募ると、男性社労士に動員の圧力をかけない状況では、応募者の男女比は半々くらいです。それに対して、社会保険労務士全体の男女比はおよそ2:1です。

つまり、女性社労士は、「ビジネスと人権」について、男性社労士の2倍くらいの高い関心を寄せているということになります。

また、ESG担当者の集まりに行くと、見た感じでしかありませんが、E(環境)S(社会)関連の集まりでは女性がかなり多いです。

G(ガバナンス)関連の集まりでは、50代男性が非常に目立つのと対照的です。

SDGsや従来からある人権尊重運動でも、熱心に活動する人には、男性より女性が多いです。

持続可能な公共調達の導入により、県内でサステナビリティ関連職の求人を増やせば、若年層(特に女性)還流につながる

以上のように。女性は、男性と比べて、サステナビリティ関連職を好みます。

それだけでなく、サステナビリティ分野では、他の分野以上に女性が大活躍しています。

「ビジネスと人権」などのサステナビリティ関連職は、女性にとってキャリアパスを描きやすい職業です。

したがって、持続可能な公共調達の導入によって県内でサステナビリティ関連職の求人を増やせば、若年女性の還流に効果があるはずです。

特に、従来なかなか還流してくれなかった高学歴でキャリア志向の強い女性の還流が期待できるはずです。

【提言の理由⑤】「本気」の取り組みと「本気」の効果的PRで、ILO等専門家の力を借りやすくなるから

三重県庁は、人口減少対策として「ビジネスと人権」を他県に先駆けて推進するべきですが、その場合は先行者をお手本にすることはできません。

そこで、「ビジネスと人権」の専門家の力を借りる必要が出て来ます。

専門家の中でも、ILOは「本気」の人に特に協力的です。また、中央省庁のなかでは、経済産業省、外務省、法務省が「ビジネスと人権」の推進に熱心で「本気」の人に協力的です。

専門家から協力してもらうには、「ビジネスと人権」の推進に「本気」で取り組む姿勢を見せることが大事です。「本気」で取り組み、その姿勢のPR、という2本柱です。それぞれしっかりやる必要があります。

●「本気」の取り組みと
●「本気」の効果的PRで、
ILO等専門家の応援や助力を得る

専門家から「本気」の取り組みだと感じてもらうには、「人権を尊重する企業の責任」の理解と履行、「人権を保護する国家の義務」の理解と国への協力、および 東京を上回る「持続可能な公共調達」方針の作成などは確実に実施する必要があります。

専門家へのPRとしては、専門家と接点を作り、上記取り組み内容へのコミットメントを伝え、困っていることへの助力を求める必要があります。

外務省パンフレットビジネスと人権とは?

「本気」で、「人権を尊重する企業の責任」を理解して責任を全うすることを宣言

三重県庁は、職員(労働者)を雇用し、県民や市町村などに対して様々なサービスを提供し、様々な民間事業者と取引をしています。

その点で、三重県庁も事業者です。そして、県の外郭団体にも、事業者と言えるものが多いはずです。

三重県庁は、事業者として、「人権を尊重する企業の責任」を果たさなければなりません。

「人権を尊重する企業の責任」を果たすプロセスで、まず行うべきことが、人権方針の策定と公開です。

人権方針は、「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、 「国際的に認められた人権」 を尊重することに対してこの身を捧げる旨の comitment(=献身)を表明するものです。

人権方針の策定と公開は「本気」を示すのに不可欠です。「本気」と認められるためには、「ビジネスと人権に関する指導原則」を理解し賛同したうえで、指導原則を組織運営に取り入れていることが伝わるような人権方針を作る必要があります。

なお、人権方針は、次の5つの要件を満たしたものでなければなりません。

  • 代表者の署名と経営陣の承認
  • 内外の専門的情報・知見の参照
  • 従業員・取引先など関係者への人権尊重期待
  • 一般公開(Web Site)、関係者への周知
  • 事業方針及び手続・規定に人権方針を反映。

人権方針を反映すべき事業方針の代表例として、調達方針があります。

ここで、前述の「持続可能な公共調達」の出番となります。

すでに説明したとおり、「持続可能な公共調達」を「ビジネスと人権」を推進する手段として利用すべきという旨は、日本政府のNAP・SDGs・「ビジネスと人権に関する指導原則」・ILO(国際労働機関)のいずれもが、こぞって主張するところです。

「持続可能な公共調達」方針は、「本気」で「ビジネスと人権」を推進するという意思を示すうえで、とても重要です。

その重要な「持続可能な公共調達」方針ですが、すでに説明したとおり、東京都がすでに素案を完成させています。

これは人口減少対策と無関係に作成されたようですが、結果として、三重県の人口減少対策上由々しき事態となっています。

人口減少のスピードが最も遅い東京都が、人口減少対策に有用な「ビジネスと人権」の推進で49都道府県のトップを走っていて、三重県はこの面では現時点で惨敗している状態です。

人口減少対策の中でも、「高校授業料無償化」のように札束で殴りつける戦いになる部分については、東京大阪のような都市部に負けるのは仕方ないと思います。

しかし、「ビジネスと人権」の推進など、知恵や知識の部分ですら負けてしまうのでは、若年層(特に女性)をめぐる都市部との戦いは惨敗になってしまいます。

三重県は、東京都の取り組みを明らかに上回る「持続可能な公共調達」方針を宣言する必要があります。それには、次の文書を研究する必要があります。

人権DDについても、本気で実施する旨の宣言が必要です。

「本気」を効果的にPRするには、人権尊重に関する実効性評価とその情報公開を、定量的または定性的なKPIを使って、年に1度実行することを宣言するべきです。

ビジネスと人権では、ステークホルダーエンゲージメント(利害関係者との対話)が非常に重視されます。

特に、従業員との対話が重要です。

結社の自由、団結権・団体交渉権を尊重し、労働組合・労働者代表と誠実に対話することが重要です。

しかし、それだけでなく、苦情処理システム(グリーバンスシステム)の整備も要求されます。

これは、人権侵害の被害者などが、人権侵害の発生を通報し、救済を求めるシステムです。

グリーバンスシステムは、三重県庁の職員だけなく、三重県庁とつながるサプライチェーンまたはバリューチェーンに属するすべての事業者の従業員等が利用できるようにするべきです。

「本気」で「人権を保護する国家の義務」を理解し、国による「ビジネスと人権」推進に協力することを宣言する

三重県のような自治体は、国家と協力すべき存在です。

三重県は、「人権を保護する国家の義務」を理解して国による「ビジネスと人権」推進に協力し、国との間に人権政策に関する一貫性を確保しなければなりません。

そのことは、「ビジネスと人権に関する指導原則 8」から明らかです。

政策の一貫性を確保すること

8.国家は、企業慣行を規律する政府省庁、機関及び他の国家関連機関が、関連情報、研修及び支援を提供することなどを含む、各々の権限を行使する時、国家の人権義務を確実に認識し、監督することを確保すべきである。

解説

国家の人権義務と、企業慣行を規律するために国家が施行する法令や政策の間に、避けることができない相克はない。しかしながら、時として、国家は、社会の異なるニーズの間の調和をとるために、バランスを保ちながらの難しい決定をしなければならない。適切なバランスを実現するため、国家は、国内政策の垂直的及び水平的な一貫性を確保することを目指しながら、ビジネスと人権の課題に対処するよう幅広いアプローチをとる必要がある。

政策の垂直的な一貫性とは、国家が、国際人権法上の義務を実施するために必要な政策、法律及びプロセスを持つことを意味する。政策の水平的な一貫性とは、会社法及び証券規制法、投資、輸出信用及び保険、貿易、労働を含む、国及び地方の両レベルで企業慣行を規律する部局や機関が国家の人権義務について認識を持ち、また義務に合致した行動がとれるように、これを支援し対応力をつけさせることである。

「ビジネスと人権に関する指導原則 8」

三重県庁内の企業慣行の規律に関わる部局や機関は、国家の人権義務について理解し、「人権を保護する国家の義務」が果たされるように行動しなければなりません。

既に述べたとおり、「ビジネスと人権に関する指導原則」でも、公共調達は、企業による人権尊重を推進するための絶好の機会とされています。

5.国家は、人権の享受に影響を及ぼす可能性のあるサービスを提供する企業と契約を結ぶか、あるいはそのための法を制定している場合国際人権法上の義務を果たすために、しかるべき監督をすべきである。(解説略)

6.国家は、国家が商取引をする相手企業による人権の尊重を促進すべきである。

(解説)国家は、少なからずその調達活動などを通じて、企業とさまざまな商取引を行っている。それは、国家にとって、個別でも国の集まりとしても、国内法・国際法上の国家の関連した義務を考慮に入れながら、契約条件などを通して企業の人権についての意識向上や人権に対する尊重を推進する絶好の機会となっている。

ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31) | 国連広報センター

「本気」が伝われば、専門家の力を借りやすくなる

三重県の人口減少対策のカギは職場環境の整備です。

  1. 長期的なカギは、若年層(特に女性)が働きやすい(働きたい)職場環境づくり
  2. 短期的なカギは、1.の効果が出るまでの間、外国人が働きやすい(働きたい)職場環境を作ること

普通に考えれば、PRすべき対象は、若者(特に女性)と外国人ということになります。

しかし、三重県庁においては、いまだ「ビジネスと人権」についてほとんど何も取り組まれておらず、ノウハウの蓄積すら進んでいないのが現状です。

この段階で、若者(特に女性)と外国人をメインターゲットとしてPRしても、得るところは少ないでしょう。

現段階において三重県庁がPRすべき対象は、「ビジネスと人権」の推進にあたって力になってくれそうな人です。つまり「ビジネスと人権」に関する専門家です。

「ビジネスと人権」に本気で取り組むという意気込みを専門家に対してPRし、専門家の力を借りやすくすることが大事です。

「ビジネスと人権」に本気で取り組むという意気込みが「ビジネスと人権」の専門家に伝われば、専門家は、三重県の「ビジネスと人権」の取り組みを、お墨付きとともにPRしてくれます。

専門家の多くは、情報発信の機会をたくさん持っているため、大きな影響力を持ちます。

影響力のあるメディアでほめていただけると一番いいですが、仮にそうでなくとも、専門家の持つ口コミ効果はバカにできません。

特に若年層(特に女性)には、大学の授業などを通じて、かなり影響を与えます。

また、「ビジネスと人権」に本気で取り組むという意気込みが「ビジネスと人権」の専門家に伝われば、専門家からの協力を得やすくなります。

「ビジネスと人権」の専門家は、「ビジネスと人権」を推進したいと切に願っています。

ですから、専門家は「ビジネスと人権」に本気で取り組む組織には、とても協力的です。

専門家の中でも、ILOは「本気」の人に特に協力的

専門家の中で、ILOには特に熱心です。「ビジネスと人権」に本気で取り組むことを示せれば、ILOは献身的に協力してくれます。

私も所属する全国社会保険労務士会連合会は、「ビジネスと人権」に精通した人材の養成について、ILOから献身的な協力を受けています。

これは、本気で取り組むことが伝わったからです。

私は、全国社会保険労務士会連合会で、BHR推進社労士、「ビジネスと人権」研修のファシリテーター、「ビジネスと人権」部会委員を務めています。

それらの仕事の中で、ILO駐日事務所の代表やスタッフの方々と、研修プログラムの作成などについて協働しております。

「ビジネスと人権」に本気で取り組むと、ILOの方々は、本当によく協力してくれます。

GCNJはグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのことです。

GCNJは「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連で策定される前から、国連と連携しつつ人権尊重に「本気」で取り組んできました。

次のツイートのように、ILOはGCNJに協力し、「国際労働基準や『 ビジネスと人権』 について学べるEラーニング」を開発しました。

https://twitter.com/ILO_Tokyo/status/1767098020699545810

ILOは大学で多くの講演を行っています。

私は、全国社会保険労務士会連合会の研修では、ファシリテーターとしてILO駐日事務所のスタッフと協働していますが、その際にもILO駐日代表が「ちょっと今から大学に講演してきます。夕方には戻ります。」というようなことがよく発生しています。

「ビジネスと人権」に本気で取り組みたい若者に、あるいは若者に「ビジネスと人権」を本気で学ばせたい大学に、ILOは優しいのです。

そこで、三重県内の大学でILOに「ビジネスと人権」について講演してもらうことを提案します。

三重県内で「ビジネスと人権」などサステナビリティを推進する人材を育成する一助になるはずです。

また、三重県が「ビジネスと人権」に本気で取り組んでいることをアピールすることも出来ます。

中央省庁(経済産業省、外務省、法務省)にも「本気」をPRするべき

「ビジネスと人権」においても、中央省庁とのパイプ作りは重要です。

三重県庁において「ビジネスと人権」に関するノウハウの蓄積が進んでいない現段階においては、パイプ作りはなおさら重要です。

そこで、提案したいのが、省庁が主催するセミナー等のイベントに県職員を派遣することです。

政府の中では、経済産業省、外務省、法務省が「ビジネスと人権」に特に熱心で、セミナーなども精力的に開催しています。

省庁が主催するセミナー等のイベントに出席すると、担当者と面識も得られます。

私も、外務省や経済産業省の方々と、知己を得ることが出来ました。